「亡くなったのは蒲田耕平さん27歳…。米花総合病院勤務の医師ですな」
米花総合って…。
新一が入院してた病院じゃない!
じゃあ、あの時感じた嫌な感じは犯人の…?
「劇を観ている最中に倒れられたとの事ですが…」
「はい。急に苦しみ出したと思ったら、崩れるように倒れてしまいました…」
「被害者の傍に落ちている、この飲み物を口にして倒れられたんじゃないですか?」
「さぁ…?劇に見入ってたから…」
…中身はほとんど残ってない。
「それで、蒲田さんが倒れられたのは何時頃ですか?」
「午後2時40分前後ですよ、目暮警部」
「優月くん!!」
「ちょうど悲鳴が聞こえたのが劇の中盤だったから、間違いないわ」
新一には、話しかけない方が、いい、よね…?
組織の事とか色々あるでしょうし…。
多分、人前では目立つなって哀ちゃんに忠告されてるんだろう。
目の前で大好物の事件が起きたのに遺体に駆け寄らないんだもの、それ以外考えられない。
でもどうして…?
もう元の姿に戻れないって、この前言ってたのに…。
哀ちゃん、頑張って新しい薬作ったのかな?
ってゆーか何でわざわざ薬を飲んだの?
実験台にされたとか?
もしかして、哀ちゃんが言ってた「その時」が来たって事…?
「そうか!この学園祭、優月さんと蘭さん達の高校だったんですね!」
「おい!って事は、まさかあの男も…」
「んん?誰をお捜しですか?警部殿」
「お前だよお前…」
目暮警部の表情からして、とうとうこの疫病神は娘の高校にまで事件を呼び込んだか…って思ってそう。
ま、警部が思ってなくても、周りの人間は思ってるわね…確実に。
「小五郎ちゃん…遺体、調べてもいい?」
「へ?ああ、別にいいが…」
「ありがとう…」
この甘酸っぱいアーモンド臭は、青酸カリね…。
「優月さん、死因はわかりましたか?」
「ええ、恐らく」
「青酸カリや」
「え…?」
「そうやろ?優月」
「う、うん…」
平次くん、何でいるの?
和葉ちゃんは来ないって言ってたのに…。
「おい!優月くん以外誰も死体に近づけなかったんじゃないのか?」
「あ、いや…そのはずですけど…」
「アホ!死体に触らんでも見たらそれくらいわかるわ!」
「……」
平次くんのこの格好…。
きっと新一の事を慕うあまり、とうとう新一のコスプレがしたくなった…?
「死んだ人間は血の気が引くんが普通や。そやのにこの兄ちゃん、唇と爪の色も紫になるどころかピンク色になっとるがな。こら青酸カリで死んだ証拠やで!」
「ええ。青酸カリは他の毒と違って、摂取すると細胞中の電子伝達系が瞬時に破壊され、血液中の酸素が使われないまま循環してしまう。だから逆に血色が良くなってしまうの。口からは胃酸に反応した青酸カリの臭い…。つまりアーモンド臭ね。青酸系毒物で死んだ事には間違いないわ、警部」
「そ、そうか…」
「さっすが優月やなー!よう分かっとる!」
「…どうも」
平次くん…お願いだからコスプレだけはやめよう。
そんなに新一の事が好きなら、今度お泊まり会でも企画してあげるからさぁ…。
「おいお前…妙に事件に詳しいが、事件当時死んだ蒲田さんの席のそばにいたんじゃねーだろーな?」
「ちゃうちゃう!俺の席は蒲田さんの席から8列も前や!」
「それを証明する人は?」
「えーっと…あ、アイツやアイツ!あの眼鏡の坊主の隣にちゃーんと座ってたで!」
「……」
すっごい今更だけど…。
ここにいる人達全員に見られてたんだよね、キスシーン…。
な、何か急に恥ずかしくなってきた…!
「にしてもお前…なーんかどっかで会ったような、会ってないような…」
「何なんだね君は?」
「なんや、もう俺の事忘れてしもたんかいな?久し振りに帰って来たっちゅうのに、まぁーつれないなぁ!工藤新一や!」
「えっ…」
コスプレじゃなくて、まさかの成り切りプレイ!?
……もういーや。
平次くんの事は放っといて事件の調査、調査っと…。
「すみません、お話を聞かせてもらっても?」
「え…?」
「蒲田さんは、飲み物は自分で買ってきたんですか?」
「あ、私が買ってきたわ。あそこの模擬店で4人分の飲み物を買って、座っているみんなの所へ持ってったの」
その後、三谷っていう男に飲み物を4つ預けてこの鴻上さんって人はトイレに行ったと…。
「じゃあ三谷さんが飲み物を蒲田さんに?」
「いや、みんなに配ってくれって渡されて、僕は自分が頼んだ烏龍茶と鴻上さんのアイスコーヒーを手に残して…後は野田さんが…」
「ええ。三谷君から私のオレンジジュースと、蒲田君のアイスコーヒーを受け取って、それを蒲田君に…」
「僕は渡してないよ!君が僕の手から勝手に取ったんじゃないか!」
「そんなの、どっちだっていいでしょ?」
「…こんな時に口喧嘩はやめてくれません?」
あ、そういえば…。
「聞くの忘れてましたけど、蒲田さんとあなた方3人の関係は?」
「私達、この高校の卒業生で4人共演劇部。偶然今の職場も一緒で、学園祭の劇を4人で観に来るのが毎年恒例になっていたの」
「でもまさか、蒲田がこんな事になるとは…」
「自分の学説が認められるかもしれないって喜んでたのに…」
恐らくこの2人は犯人じゃないわね…。
「しかし、何でアンタ1人で4人分の飲み物を買って来たんです?1人で4つも持つのは大変でしょうに…」
「……」
いつからいたのよ、警部と小五郎ちゃん…。
ああ、こんな時にラディッシュがいてくれたらなぁ…。
あの海坊主、推理の頭は足りないけど、私への配慮はそこそこしてくれてたから…。
「混んでいたから、皆には先に行って席を取っておいてもらったんです。後で蒲田君が来て、買うのに付き合ってくれていたんですけど、急に青い顔して席に戻っちゃったから…」
青い顔…?
「きっと、売り子の中に私がいたからじゃないでしょうか…」
「え?」
「あら彩子ちゃん!貴女もこの学校の生徒だったの?」
蜷川…?
米花総合病院の院長の名字も、確か「蜷川」だったわね。
ふーん、院長の娘だったんだ…。
「じゃあもしかして、4人の飲み物をカップに入れたのは…」
「私ですけど」
「なるほど…」
まーた出てきた。
新一といい平次くんといい、何でこう口を挟んでくるのかしら…。
「これで容疑者が全員出揃ったっちゅうワケやな!」
ううん、違う。
三谷さんと野田さんはシロだ。
今の段階で怪しいのは鴻上さんと蜷川先輩、ってところかしら…。
でもどうやって青酸カリを…?
「ちょっと待ってよ!私は蒲田君と同じアイスコーヒーだったのよ?私が彼の方に毒を入れたのなら、誤って自分が飲まないように直接彼に渡すわよ!」
「でも両方に入れて自分の方を飲まなければ…」
「全部飲んじゃいましたよ!」
「自分のはトイレに捨てちゃったんじゃないんですか?」
「私はみんなの飲み物を預けてトイレに行ったって言ってるでしょ?戻ったら劇は始まってて、その後席は立ってません!」
始まる直前に…?
「僕は預かった飲み物を渡しただけで、毒を入れる暇なんてありませんでしたよ」
「私だってそうよ!」
「でもフタを開けて中身の確認ぐらいしたでしょ?」
「開けなくてもわかりますよ!フタに中身が書いてありましたから…」
「それに、アイスコーヒーはガムシロップとミルクがフタの上に乗っていたし…」
乗ってた…?
「警部!蒲田さんのポケットから未使用のミルクとガムシロが!」
「未使用?という事は、一体…」
他の人の話によると、蒲田さんはブラック派というわけでは無い…。
という事は…。
「中身がアイスコーヒーじゃなく、コーラだったから…」
「え?」
「そうすれば、もしかしたら私の所へ彼が取り替えに来てくれると思ったんです。私が彼との婚約を解消した理由を、聞きに来てくれるかもって…」
「え…」
「こ、婚約!?」
「えぇ…私が卒業したら、結婚する予定でした。でもなんか不安になっちゃって、先週お断りの電話をしたんです…それ以来、病院に行っても会ってくれなかったから…」
「なーんだ…だから私のもコーラだったのね?もうちょっとでこのガムシロップとミルク入れちゃう所だったわ…」
持っていたガムシロとミルク…。
空いていたカップのフタ…。
青酸カリ…。
間違えられたカップの中身…。
そしてあの人の、あの発言…。
「……なるほどね」
蒲田さんを殺害した犯人もトリックも、全て解った。
でも証拠が無い…。
……いっその事、新一みたいに捏造しちゃう?
あはは、それはさすがに今回は無理、無理。
それに出来たとしても、私にはそんな度胸ないし…。
ま、他にも頭のキレる人間は一応揃ってることだし、私は少し様子を見させてもらおうかな。