−只今より、2年B組のシャッフルロマンスを上演いたします。ごゆっくり御鑑賞下さい…−
今のアナウンス、園子の声よね…?
なんだか笑いを堪えている様に聞こえたんだけど、気のせい…?
ってゆーか、アナウンスするならちゃんと真面目にやらなきゃダメでしょ!
「ああ…全知全能の神ゼウスよ!!どうして貴方は私にこんな仕打ちをなさるのです!?それとも、望みもしないこの婚姻に身を委ねよと申されるのですか!?ああっ…」
「いよっ!待ってましたっ!大っ統領ー!!」
「っ!?」
ちょっ…!
小五郎ちゃん!!
アンタ何してんの!?
「いやー、あれウチの娘でして!高校生探偵やってるんすよー!あたくしに似て優秀で…」
「「「ワハハハハハ!」」」
い、いつから小五郎ちゃんの娘になったのよ!!
あ〜、恥ずかしい…。
もう帰りたい……!
だからやりたくなかったのよ!
そんなこんなでバカみたいなヤジが飛び交う中、劇は滞りなく進んでいき…。
「お、おのれ何奴!?これをブリッジ公国ハート姫の馬車と知っての狼藉か!?」
しかしまぁ、園子にはすこぶる感心してしまう。
よくこんな台本、1人で書き上げたなぁ…。
しかも3日で。
これぞ隠れた才能…。
「元より承知の上よ…。姫を亡き者にし、婚姻を壊せとの命令だ!」
「我ら帝国にとっちゃ、公国と王国には今まで通りいがみ合ってもらった方が都合がいいってワケよ…」
前から思ってたんだけど、高校の学園祭の劇にしちゃあ、みんな演技が上手よね。
みんなが頑張ってるのなら、私も手を抜いていられないわ!
「来いっ!」
「きゃあぁあっ!!」
ここで腕を引っ張られ、私演じるハート姫は最大のピンチになるわけで……。
えーっと次は……。
「優月ちゃん格闘技や格闘技!!そんな連中殺てしもてーー!!」
ああ…素敵な声援をありがとう、和葉ちゃん…。
でもね、いくらなんでも感情移入し過ぎだよ…。
「ん?」
「カ、カラスの羽根…」
「ま、まさか!」
ズバッ!!
「ぐあっ!」
「こ……」
「「「黒衣の騎士!?」」」
「「「きゃぁーーっ!カッコいいーーっ!!」」」
上から落ちてくる演出って、なんだか安全面的にどうなの?って思うんだけど…。
先生っていうのも大変だなぁ…お疲れ様です。
「くそっ、引け!引けぇーーーっ!!」
ここは見せ場だから、気を引き締めてしっかりやらないとね。
テキトーにやったら園子に何されるか分かんないし…。
「一度ならず二度までも……。私をお助けになる貴方は一体誰なのです…?ああ、黒衣を纏った名も無き騎士殿…。私の願いを叶えていただけるのなら、どうか、その漆黒の仮面をお取りになって…素顔を私に!」
「………」
「………」
ちょっと、先生…!
それが姫のお望みとあらばってセリフ言わなきゃいけないでしょう!?
なにボーッとして……。
「…えっ、」
突然、新出先生が私の体に手を回し、軽々と抱き寄せた。
えっ!?
ちょ、何っ!?
何が起きてるの…!?
こっ、こんなの台本に書いてないよ!?
っていうか!!
あ、あ、足が宙に浮いてるんだけどっ!
先生ったら何考え…て…。
「…っ!?」
違う…!
この人、新出先生じゃない…。
新、一…?
でも、どうして…?
もう元の姿に戻れない、ってこの前……。
…って、あれ?
園子がニヤニヤしながらカンペ持ってる…。
い ー か ら
そ の ま ま 続 け て !
つ い で に 仲 直 り !
…だからさっき必死に笑いを堪えてたの!?
「………」
「………」
でも…いいや。
このまま、時間の流れが止まってしまえばいいのに、って本気で思う。
そしたらずっと…。
ずっと、感じていられるから…。
快斗とは全然違う、大好きな香り。
懐かしくて、私の大好きな、この温もり。
…久しぶりだなぁ。
新一に、こうやって抱き締められるの…。
……って!!
のんきに落ち着いてる場合じゃないじゃん!!
とっ、とりあえず劇を続けないと…!!
「…あ、貴方はもしやスペイド…。昔、我が父に眉間を斬られ、庭から追い出された貴方が…トランプ王国の王子だった、と、は……」
「……」
「……」
「……」
「……」
どっ、どうしよう……セリフ、ど忘れしちゃった……。
こうなったら園子に助け船を出してもら……ん?
早 く キ ス !
「…」
あのー、園子さん…。
そのニヤニヤ顔、京極さんには見せない方がいいと思う。
私も今まで見た事ないよ、アンタのそんな気持ち悪い顔…。
「……もしも」
でも、園子のおかげで思い出せた…。
黒衣の騎士とハート姫の設定は、私と新一をイメージして書いたんだって園子が言ってたから……。
「もしもまだ…幼き日の、あの約束を忘れてなく、未だその想いが変わっていなければ……」
どうして、涙が出るんだろう…?
「どうか…どうか私の唇に、その…愛の、証…を……」
久しぶりに、新一と熱い口付けを交わした。
たった1、2ヶ月キスをしなかっただけなのに、どうして懐かしさを感じたんだろう…。
客席からは黄色い歓声や、小五郎ちゃんの「あんニャロォ!嫁入り前の娘に何てことを!」とか、和葉ちゃんの宥める声とか色々聞こえてたけど、もうそんな事はどうでもよくて…。
ただただ、久々に感じる甘いひと時に酔いしれていた………ら。
「きゃああぁぁああっ!!」
「「!?」」
この場にそぐわない甲高い叫び声に、一気に現実に引き戻された。