smaragd | ナノ

Zauber Karte

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挫折


博士から、何故新一が撃たれたのかを詳しく聞いた。
意識が朦朧としてる中でちゃんと推理してみんなを助けたなんて、やっぱりさすが名探偵だなって感じた。
でも一番感心したのは、少年探偵団の名推理と行動かな。
みんなが助かったのは、コナン君を絶対に助けたいっていう、探偵団の強い思いのお陰なんだから…


「…で?」
「うん?」
「何故貴女も連日の様に押し掛けてくるワケ?」


あなた「も」って事は、新一も連日の様に押し掛けてたんだろうな。
まぁ、気持ちはわかる。
蘭からの「アンタいつになったら白状すんのよ」オーラは結構怖いもん。


「…ダメ?」
「……好きにしたら?」


あれから学園祭の準備やら何やらでバタバタしてたら、いつの間にか1週間以上が経ってた。


「ミルクティー飲む?」
「…飲む」


最近哀ちゃんは私に対して優しく接してくれる。
最初の頃はツンツンしてたのに、だんだんそのトゲが無くなってきた様に思える。
……新一に対しては相変わらず風当たり強いみたいだけど。


「どうぞ…」
「ありがと…」
「…貴女、あれから病院には顔出してないの?」
「うん…」
「そう…ま、その方がいいかもね…」
「……」


私は新一が撃たれた日から病院には行ってない。
蘭にはしつこく誘われてるけど、そこはうまく言い訳をして今日までのらりくらりと交わしてきた…のだけど。


「本当ですか?」
「ええ…主要臓器の損傷もなく、術後の経過も良好でこの調子ならあと2、3日で退院できると思いますよ」
「わぁ、よかったー!」
「よかったね優月!」
「そ、そだね…」


最後の最後で交わせなかった。
蘭に「今日こそは優月もコナン君のお見舞いに行こう!」って病院に強制連行された。
蘭の気持ちもわかる。
わかるんだけど…


「ただ…術後、抵抗力が低下していて上気道感染を起こしているようですがねぇ…」


新一、また風邪ひいちゃったんだ…


「はーい!お遊びタイム終了!」
「「「えーっ!?」」」
「怪我人は病室へ直行!子供は時間が遅いのでおうちに帰りましょう!」
「ゴメンねみんな…」
「……」


車イス押してあげたいのに今は出来ない。
何だか自分が情けなくなる。


「じゃあなコナン!」
「まったねー!」
「次は学校で会いましょう!」
「おう!じゃあな!」
「じゃあ私もこれで…」
「優月はこっち!」
「痛い痛い!」


うまく逃げようと思ったのに!
園子も耳なんか引っ張らないでよ!


「でもさー、退院が2、3日後って事は学園祭の真っ最中…」
「3日後だったら私たちの劇の当日よ!」
「どうするの?この子の迎え…」


園子に腕をガッチリ掴まれながら病室へ強制連行されてるから逃げるに逃げれない…


「コナン君は私が朝迎えに行くわ。それでそのまま学校に行くつもり…」


蘭は最初から強制的に新一を連れて来るつもりなのね…


「あ、そういえば優月!」
「うん?」
「アイツに連絡した?」
「…してない、かもね」
「えー!?何で連絡しないのよ!アンタがヒロインやるって言ったら喧嘩中でもすっ飛んで来るかもよ?」
「……来ないよ」


頼むから蘭とコナンの前でその話題はやめて欲しい。


「フフッ!もう別にいいじゃない園子、あんなヤツの事なんて…それに優月はコナン君に早く元気になって観に来て貰いたいんでしょ?」
「えっ?えーっと…」


蘭のこういう発言は本気でドキッてする。
チラって新一を見ると黙ったままゲームで遊んでた。
その反応が少し寂しい。


「…別にコナン君に来てほしいなんて思ってないよ」


可愛くない事を口走る自分自身が嫌になる。


「あ、そうだ!江古田の黒羽くんは学園祭来ないの?」


次から次へと答えにくい事聞かないでよ…


「…快斗はその日補習なんだって!アイツ、成績優秀なクセに生活態度最悪だから!どうせまた反省文書かされるんじゃない?」
「ふーん…何かそれって新一君みたいね!」
「は!?」
「ちょっと園子!やめなよ!」
「何でよ?別にいいじゃない」
「ダメなものはダメなの!」
「…」


蘭の考えてる事が何となく分かったかもしれない。
多分蘭は、新一と私がケンカしたのは快斗が原因だと思ってる…。
…女の勘ってほんとにイヤだ。


「それにしても園子、残念ね…練習中に手首、捻挫しちゃうなんて…」
「本当ツイてないわよ!お陰で騎士役降板…」
「でもいい人が代役買って出てくれて良かったじゃない!」
「いい人?」
「ほら、前に言ってた新出先生よ!」
「え?」
「悔しいけど先生がまたうまくてさー!優月とのラブシーンなんか必見よ!」
「そんな大したものじゃないし…」
「…へぇ」
「まぁ、後は優月が大勢のお客さんに飲まれなきゃバッチリね!」
「いやだなぁ、人前で喋るのには慣れてるから大丈夫よ!」
「あ、そういえば今年は演劇部が体育館の中で模擬店出して、冷たい飲み物売るって聞いたよ!」
「ほんと?良かった〜去年蒸し暑くて大変だ…っ!!?」


嫌な空気を感じて後ろを振り返った。
……誰も、いない…。
今のは何だったの…?


「優月どうしたの?」
「あ、ごめんごめん…」


気のせいよね…


「あんた何考えてんの?ユリなんか買うて来て!」
「うるさいやっちゃなぁ!花やったら何でもええやないか!」
「えっ…」
「…あの声、コナン君の病室からよね?」
「うん…」


この声…
この方言はまさか…


「アホ!ユリはなぁ、匂いがキツうて嫌がられるんやで!?見舞いに買うて来る花ちゃうやん!」
「そやったら初めからそうゆうとけボケ!」


…やっぱり。


「平次くんに和葉ちゃん…どうしたの?」
「おー!坊主が大怪我したっちゅうから、学校帰りに飛行機乗って来たったんや!」
「それでどうなん?具合…」
「うん、順調に回復してて2、3日後には退院できるって」
「そう、よかったなぁ」


平次くんがわざわざ来るなんて珍しいなぁ…。
そんなに新一が好きなのかな?


「まぁええ。とにかく縁起のえぇ花買うて来いや!」
「なんやの?えっらそーに」
「……」


何だか嫌な予感がする…。


「和葉ちゃん、道に迷わないように案内してあげるからおいで!」
「優月ちゃん、えぇの?」
「もちろんよ!じゃあ行こっかぁ!?」
「…お前はここや」
「えっ…」


平次くんが私の髪引っ張ってこのセリフを言ったって事は……


「じゃあ姉ちゃんら、和葉の事頼むでー!」
「はいはい」
「ちょっ…」


置いてかないでっ!


パタン…


無情にも目の前でドアが閉まったワケで。


「さて…」
「……」
「……」


き、気まずすぎて後ろ向けない…


「何やお前ら、1ヶ月以上もケンカしたままなんやって?」


…やっぱりね。
そう来ると思ったんだ。
どうせ博士がペラペラ喋ったに違いない。


「何があったんか知らんけど早よ仲直り」
「平次くんには関係ないでしょ!!」
「…へ?」
「…ごめん、帰るね」


ドアを開けて出て行く時に平次くんと新一の声が聞こえた。


「優月ちゃん!」
「あ…」


和葉ちゃん…


「ど、どうしたん!?」
「え…」
「何で泣いてるの?優月…」
「あ…ううん、何でもない」
「何でもないって…何かあったから泣いてんのやろ?ま、まさか!平次に何かされたん!?よし、待っとって!うちがシバいて来たるから!」
「あ!和葉ちゃん違う…のって…」


行っちゃった…


「優月…?」
「ごめんね心配かけて。ほんとに何でも無いんだ…」
「ちょっと優月、どうしたのよ?最近元気ないし…もしかしてあのガキンチョとケンカでもしたの?」
「そ、そんなんじゃないって!私ちょっと用事あるから帰るね?あの2人によろしく言っといて!」
「あ、優月!」


本当は用事なんか無い。
1人になるのが怖いから家に帰りたくない。
蘭や園子みたいに、新一の傍に居てあげたいよ…


「ふ…っ…」


−あ、おい!−
−放っとけ服部…−


放っとけってどういう意味で言ったかなんて、私には分からない。
今はまだ「その時」じゃないからっていう意味なの…?
それとも…
もう別れたつもりでいるの…?


「…いつまで、こんな思いしなきゃいけないの…?」


あの日からどれくらい経ったの?
なんで新一は何も言ってくれないの?
もう、疲れた…
待つの、疲れちゃったよ…。


bkm?

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