「……ん…」
目が覚めて自分の肩を見ると、小五郎ちゃんの上着がかかっていた。
何でだろう…
身体がとてもダルくて、頭も何だかボーッとする。
あ、そうだ…
どれ位だったか覚えてないけど、看護師さんにせがんで限界まで血を採ったんだ。
夕飯食べた後で良かった…
えっと…
それで新一の手握りながら泣いてて…
眠くなってきたからそのまま……
「……!!」
私は今、左を向いてベッドに突っ伏してる状態。
新一は恐らく私の右側にいるワケで…
……気まずい。
ホント気まずい。
物音とかしないけど、新一が隣にいるのは気配でわかる。
怖くて右向けない。
こっそり腕時計を見ると、日の出の時間を少し過ぎたあたり。
もうあれから6時間は経とうとしていた。
こんなに時間が経ってたら、新一は多分麻酔が切れて目が覚めてるかもしれない。
でもわざわざ確認するなんて気まずいし…
どうしよう…
−意識が戻ったら、何も言わずに部屋から立ち去る事ね…−
「……」
がたっ
私は右を向けないまま立ち上がり、何故かは分からないけど足元に置かれていたスケボーを持って病室のドアに手をかけた。
「ありがとな…」
新一…
「っ…」
思わず唇を噛み締める。
ここで振り向いて、新一に駆け寄りたい。
私は快斗を新一の代わりなんかにしてないって言いたい…
私は快斗の事は友達としてしか見てないって伝えたい…
それが出来れば、どんなに楽か…
がらっ!
私はドアを勢い良く開けて廊下に出た。
「ふっ、うぇ…」
私はドアを後ろ手で閉めた直後、そのままズルズルと座り込んでしまった。
「…お礼なんか…お礼なんかいらない…」
私が欲しいのはそんな言葉じゃない。
新一の口から聞きたい言葉は他に沢山あるのに…。
−アイツが本気で優月を俺に盗られたくねぇって思ってんなら、必ず何かしら行動に出てくると思うんだ−
ねぇ、新一…
今貴方は、どんな気持ちでいるの?
本当に盗られたくないって、思ってくれてるの…?
−今は、まだその時じゃないわ−
ドア一枚挟んだ向こう側には、今すぐにでも謝りたい相手がいるのに…
色んなモノが邪魔して伝えられないよ…
プルルルルルル…
プルルルルルル…
「優月か!?」
「あ、快斗…」
「アイツの容態は!?無事だったのか!?」
「……」
普段のポーカーフェイスが消えちゃうくらい、心配しててくれてたんだ…
「大丈夫、生きてるよ…」
「はぁ〜、そっか…よかったな…」
「ねぇ、快斗」
「ん?」
「私ね…新一に血をあげたの…」
「…」
「そしたら…いつの間にか寝ちゃってて…起きてすぐに、病室出たんだ…」
「…」
「新一にね…ありがとうって言われた…でもね、頑張って我慢したよ…?振り向かないで…何もっ…言わないで…飛び出してきたよ…っ…」
「……」
「ふっ…うぇっ…」
「…きっとアイツも…オメーが今どんな想いでいんのかわかってると思うぜ…?」
「…うん」
「だから泣くな。笑う門には何ちゃらっていうだろ?その何ちゃらが来なくなっからな!」
「うん…わかった…」
その後、少し快斗と話して電話を切った私は、自宅に帰る為にスケボーを走らせた。
まだ時間帯が早いせいか、人をあまり見かけない。
ビルの谷間からは白い太陽が昇り始めていた。
「うわぁ、キレイ…」
この光景を見ると、あの日の事を思い出すなぁ…
−大人になったら…、俺と…俺と結婚してくれないか?!俺、きっとホームズみてぇな、有名な探偵になってみせるから…!−
今でも思ってくれてるかな…
私は変わらないよ、新一…
「…あれ?」
うちに帰るとキッチンがキレイに片付けられていた。
私が落としたお皿も跡形もない。
テーブルには快斗が作ったサンドイッチが、薔薇の花と一緒に置いてあった。
「…いい婿になるよ、快斗」
花嫁修行は快斗に手伝って貰おうと決意しつつ、サンドイッチを食べてからベッドに倒れ込み、目を瞑った。
学園祭まであと、2週間…