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Zauber Karte

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コトノハ


どのくらいの時間、快斗の胸で泣いたんだろう…
やっと落ち着いた時には、もう太陽は傾き、辺りには夕陽が射していた。


「優月」


快斗は私から体を離し、笑顔を私に向けた。


「…うん?」
「これ、オメーにやるよ」


ぽんっ!


「…赤い、薔薇?」
「そっ!」
「…ありがと」


私は薔薇を取ろうと手を伸ばした。ら…


「…えっ?」


な、何でくれるって言ったのに取らせない様にするのよ…


「ただし…」
「な、何?」
「…葉っぱだけな」


快斗はプチッ、プチッと葉っぱを千切っていく。
その行動が何なのか、私には分からなかった。


「葉っぱだけ、って…どういう意味?」
「…薔薇は、」
「うん?」
「他の花と違って枝やトゲ、んでもって葉っぱにもちゃーんと意味が存在するんだ」
「へぇ、そうなんだぁ…」
「そっ。…赤い薔薇の葉に込められる意味…それは…」
「…それは?」


プチッ…


「"あなたの幸せを祈る"…」


快斗はそう言いながら最後の葉を千切り終わると、数枚の葉を私に握らせた。


「…快斗、私の幸せ願ってるって前にも言ってたよね?」
「ああ…でもそれだけじゃねぇんだぜ?」
「え…?」
「他にも、2つ意味があるんだ…」


快斗の大きな手が私の両手を包み込む。


「"希望あり"、"頑張れ"って意味がな…」
「…」


快斗…


「ワン…」
「?」
「ツー、スリー…」


快斗の手がそっと離れた。


「手、開けてみ?」
「あ、うん……えっ!?」


さ、さっきまでバラバラだった葉っぱがいつの間にか栞になってる!


「わぁ…!かっ、快斗すごい!本当にすごいよっ!さすがだね!」
「へへっ!気に入ったか?」
「うん!ホントに嬉しい!ありがとう!」
「…フッ、やっぱオメーには泣き顔なんかより笑顔が一番似合うぜ?」


快斗はそう言うと、私の頭を優しく撫でた。


「…快斗は、人を笑顔にする名人だね」
「前にも言っただろ?俺のマジックは元気になれるって有名だ、ってな!」
「…そうだったね」


あの時も新一の事で悩んでたっけ…


「それにさ」
「うん?」
「俺はオメーに限らず、友達にはなるべく笑ってて欲しいんだ。だから親友である優月が笑ってくれんなら、こんな簡単なマジックで良ければいくらだって見せてやるぜ!」


夕陽に照らされながらニコニコ笑う快斗の笑顔に、胸が締め付けられた。


「…ごめんね。毎日、呼び出しちゃって…」
「…んな事気にすんな。迷惑だったらすっぽかしてっから」
「…うん」


普通、好きな人に瓜二つの相手が自分にこんなに優しくしてきたら、気持ちが揺らいでしまうと思う。


「…何でだろうね」
「え?」


でも私は…


「何で…新一より先に、快斗と出逢えなかったんだろ…」


私の中では、今でもちっとも変わらない想いが、新一に対して存在するんだ…
昔からずっと変わる事のない想いが、変わらぬカタチで胸の中に在る…


「…仮に俺と優月が付き合ったとしても、ぜってーうまくいかねぇと思うぜ?」
「…そう?」
「ああ。優月はあの名探偵だから今までうまくいってたんだよ。今は少しだけ歯車が狂っただけだ」
「…どうやって、その歯車を直せばいいの…?」
「それは名探偵の仕事。オメーの仕事は、ただ直るのをひたすら待ってればいいんだ…」
「…ねぇ、どうして快斗は私に待てって言うの?私だって、新一に酷い事しちゃっ」
「じゃあ逆に聞くけどさ、オメーにそういう行動を取らせた犯人は誰だ?」
「……新、一」
「だろ?優月は何も悪くねぇじゃねぇか。だからオメーは謝る必要なんかねーんだよ。な?」
「…うん」


快斗に言われると、ホントに不思議とそんな気がする。
これも、手品の1つなのかな…
それともただ…
私が都合良く、解釈しているだけなのかな…


「夕飯…」
「え?」


でも…


「1人じゃ寂しいから今日も食べてって?」
「…おう!」


でも私は、新一を信じる。
いつになったら、私と新一の歯車が動き出すのかなんて、そんなの分からないけれど…
今は、信じなきゃダメなんだ。
信じて、ただひたすら待つ。
自分でもそれしか思い当たらない。
それに、快斗のお陰でまた頑張れる気がするんだ…。


「ごちそーさまでした!」
「お粗末様でした!」


結局快斗にちゃっかり作ってもらった私って一体…。
でも仕方ないよね。
快斗のご飯美味しいし。


「さて、片付けよっと」
「俺も手伝うよ」
「えっ、いいよいいよ!快斗はテレビでも見てて?」
「そーか?じゃあよろしくー!」


ピリリリリリリ


キッチンへお皿を運んでる途中、ケータイがけたたましく鳴り響いた。


「あれ?阿笠博士だ…」


ピッ…


「もしも…」
「優月くん大変じゃ!」
「え?どうしたの博士?」
「し、新一が拳銃で撃たれた!」


がしゃん!!


「……え?」


多分、私の足元には割れたお皿の破片が散らばってると思う。
一瞬で目の前が真っ白になったせいで、それすら確認できなかった。


「すぐに米花総合病院まで来てくれ!詳しい話はそれからじゃ!」


ゴトッ


手からケータイが滑り落ちる様な感覚がした。
新一が…?
拳、銃…?
病院…?


「…い…おい優月っ!!」
「!!」


我に返ると目の前に快斗の顔があった。


「どうした!何があった!?」
「…し、しん…い…ちが…」
「アイツがどうした!?」
「…撃た、れたって…」
「何っ!?」
「どう…しよ…どうしよう快斗っ!!私どうすれば」
「落ち着け!!」
「っ…」
「どこの病院か聞いたんだろ!?」
「米…花、総合…」
「じゃあ早く行け!グズグズすんな!」
「で、でも今はケンカ…」
「バーロォ!こんな時に何言ってんだオメーはっ!!行かねぇで後悔する結果になっちまったらどうすんだよ!?んな事になるぐれぇなら行って後悔した方がいいに決まってんだろ!!」
「っ…!ごめんね快斗っ!!」


私は博士に作ってもらったスケボー片手に家を飛び出した。


「新一っ…!」


正直どうやって行ったのか覚えてない。
もう無我夢中だった。
何も考えられなかった。
ただ博士の声からして、新一が死ぬかもしれないっていう状況なのは確信した。


「やだ…やだよ…!死んじゃやだよ…!新一っ!」


病院に着いた私は、走って階段を駆け登った。
この時私は、まだ知る由も無かった。
これが…
この事件が、全ての始まりだったなんて……。


bkm?

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