smaragd | ナノ

Zauber Karte

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異なる視点


この怒り狂った感情を落ち着ける為に、いつもは通らない道を適当に歩いた。
結局、徒歩5分の距離を1時間かけて帰ったけどなかなか怒りは治まらない。


「ただいまっ!」


バタンッ!!と荒々しくドアを閉めながら家に入った。


「…ん?」


ら、美味しそうな匂いが鼻を掠める。


「っ、まさか!」


慌ててリビングに入ると、快斗がキッチンに立って料理をしてた。


「おっ帰りー!オメー遅かったな?」
「快斗…」
「あ、わりぃな!勝手にキッチン借りて」
「それは構わないけど…」


快斗と新一は外見はそっくりだけど、中身は本当に真逆。
新一と違って快斗は和洋中、何でも作れる。
海外で遊び歩いてる千影さんが、1人でも不自由しない様にって快斗に色々教え込んだらしい。
ちなみに私よりも美味しく作るから嫌みな事この上無い。


「ねぇ…」
「んー?」
「何で快斗がご飯作ってるの…?」
「…あのさぁ、1個400円のたっけーアイスを10個も奢ってくれたヤツに俺が本気で飯作らすと思ってたのか?」
「…え?」
「俺そこまで鬼畜じゃねーし。最近よくオメーの事呼び出してたからさ、これはそのお詫びってヤツ」


快斗はそう言いながらテーブルに夕食を並べていく。


「さっ!俺の腹が限界にきてっから食おーぜ!」
「…」


色々な感情が入り交じって心の中がグチャグチャ。
新一とあんな事があった後に快斗にこんな優しくされるなんて…
そんなの、反則だよ…


「…快斗っ!」
「わっ!…オメーどうしたんだよ?」
「ふっ、うぇっ…」
「……よしよし」


快斗は泣いてる私を黙って抱き締めてくれた。
今の私には快斗しかいないって本気で思った。


「ごめんなさい快斗…」
「え?何が?」
「……あのネックレス、新一に壊されちゃった…」
「…」
「ごめんね…ごめんね快斗っ…!」


何度謝っても心が晴れない。


「…やっぱりな」
「…え?」
「アイツならやりかねないって最初から予想はしてたよ」
「じゃあ何で…」
「何でって…別に壊されたってまた作りゃいいやって思ったからオメーにあげたんだよ」
「…う、うわぁ〜ん!!」
「おいおい泣くなって!また作ってやっから」
「ダメなの!」
「へ?」
「あれじゃなきゃダメなの!」
「…」
「…あのネックレスは、私と新一を守ってくれた…。だからどうしても、あれじゃないとダメなの…。でももう…消えちゃった…」


私と新一との絆も…
泡となって消えちゃったんだ…


「…名探偵と何があった…?」
「……色々」
「…腹、減ったな」
「…え?」
「とりあえず飯食おうぜ?話はそれから!」
「…うん」


快斗が作ってくれた夕食を食べた後、私はさっきの出来事を快斗に話した。
快斗が新一と重なって見えた事も、新一が私に言い放った事も何もかも全て。


「ふーん…俺が名探偵と重なって見えたねぇ…」
「ごめんなさい…」
「…なーに謝ってんだよ」
「だって…」
「別に悪い事じゃねーだろ?それってつまりアイツの事を心底愛してるっていう、紛れもねぇ証拠じゃねーか」
「……」


意外な言葉だった。
それと同時に、感心もしてしまった。
こんな風に違った視点から物事を視て判断する快斗は、さすが平成のアルセーヌ・ルパンと呼ばれてるだけある。


「…でも、あんな事されたお陰で百年の恋も一瞬で冷めたよ。もうあんなヤツとは一緒に居られない。今はもう新一に対して愛なんか無くなっちゃったよ…」
「……」


本音かどうかなんて自分でもわからない。
って事は、まだ私は頭に血が昇ってる状態なんだと感じた。


「それに、仮に謝られても許せる自信がないよ…」
「…じゃあさ、付き合うか?俺と」
「…え?」


一瞬耳を疑った。


「な、何で…」
「だってもう名探偵の事嫌いなんだろ?俺、アイツと違って優しい男だぜ?お得な物件ってヤツ!」
「お、お得って…」
「それに丁度いいしな!」
「…丁度いいって?」
「俺さ、結構前からオメーの事意識してたんだぜ?」
「…う、嘘だ!?」
「嘘じゃねーし!好きでも無い女を、何かと理由つけて頻繁に呼び出すか?」
「……」


心が弱ってる時にこんな事言われたら、誰だって揺らぐに決まってる。


「…いいよ」
「え…?」
「付き合おっか、私達…」
「…オメー本気で言ってんのか?」
「私はいつだって本気だよ。快斗だって知ってるでしょ?その証拠にほら、アイツに指輪投げ付けてきてやったし…」
「ふーん…じゃあ俺とこういう事も本気で出来んのか?」
「え…っ!」


腕を引っ張られた瞬間、いきなり快斗の顔が目の前に近付いた。


「やめてっ!!」


ばしっ!


「あ…ごめ…」


今日2回も人を叩いちゃった…


「いってー…オメー少しは手加減しろよな!」
「だ、だって…いきなりちゅうしようとしたから…」


快斗の頬は私に叩かれて少し赤くなっていた。


「はぁー…名探偵の言う様にオメーってほんと手がかかるな」
「な、何よそれ意味わかんない!」
「…オメーまだ気付かねーのかよ?」
「だから何が」
「今何で俺を拒否った?」
「え…?」
「オメーが俺を殴ってまで拒否したっつー事は、俺とキスしたくなかったんだろ?もう答え出てんじゃん」
「っ…!!」


あんな酷い事をされたのに…
自分から大嫌いって言ったクセに…
指輪…投げ付けちゃったのに…


「…ふ…うぇ…っ」


私はまだ新一の事、愛してるんだ…


「優月」
「ひっく…?」


突然快斗が私の両肩を掴んだ。


「いいか?よく聞け」
「……」
「こんな時こそ、自暴自棄になんかなるな。俺はそんなオメーなんか見たくねぇし、もしこれが俺じゃなくて違う野郎だったら、どうなってたか分かるか?取り返しがつかねぇ事になってたかも知れねーんだぞ?」
「あ…」
「それに、愛が無くなったなんて簡単に言うモンじゃねぇ。言葉には魂が込められてんだ。思ってもねぇ事を軽々しく口にするな。わかったな?」
「…快…斗…」


快斗は…
最初から分かってたんだ…
私が新一じゃなきゃダメだって事を…
だから私にわざとキスをしようとして気付かせてくれたんだ…


「…快斗ぉ!」
「よーし!思う存分、この優しい快斗くんの胸で泣きたまえ優月ちゃんっ!」


快斗は私の頭を優しく撫でながら抱き締めてくれた。


「ごめんなさい快斗っ…私…私っ…!」
「謝んなって。オメーの気持ちよーく分かっから…」


きっと私の顔は涙でグシャグシャになってる。
でも止める事なんて出来なかった。
何で新一と冷静に話し合えなかったんだろう。
何で私は新一を叩いてしまったんだろう。
何で指輪投げ付けちゃったんだろう。
今ごろ全部後悔しても遅いんだ。
私は新一に対して取り返しのつかない事をしてしまった。


「どう、しよう…もう、新一に、嫌われちゃったよ…」
「…俺はそうは思わねぇけどな」
「…え?」
「アイツもバカじゃねぇ。今ごろオメーと同じ様に後悔の嵐に苛まれてると思うぜ?」
「…わ、私…新一に謝ってくる!」


私は家を出ようと快斗に背を向けた。


bkm?

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