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Zauber Karte

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壊れる愛、裂ける絆


蘭の家に向かってる途中、ずっと考えた。
どうしてさっき、快斗が新一に見えたんだろう…。
今まで何度か、快斗の言う事とか仕草は新一に似てるなって感じる事はあったけど、目でハッキリと新一と重なって見たのは初めてだった。
もしかしたら私…
快斗の事、無意識のうちに新一の代わりとして見てる…?
ううん!
そんな事ない!
確かに顔も声も似てるけど、絶対に有り得ないよ!
そんな事あっちゃいけない事だもん!


「はぁ…」


なんか…すごい罪悪感。
2人に対して申し訳ない気持ちになる。


「おいおい優月!」
「え…?」
「え?じゃねーし!オメーどこ行くつもりなんだよ?」


見上げると窓には毛利探偵事務所の文字が。


「あ…」


ずっと考え込んでたからわからなかった…


「どうしたんだよ?さっきから黙り込んで…」


快斗が新一だったらいいのにな…


「…何でもないよ」


思わず口に出してしまいそうなのを必死に堪えた。


「あのなぁ…俺に嘘つくなよな!隠し事禁止なんだろ?」


こんな事、いくら隠し事禁止な関係でも言えるワケがない。


「ほんとに何でもないってば。新一の具合が良くなかったらどうしようって考えてただけだよ?」
「…そ、じゃあ俺行ってっから」
「うん…」


怒らせちゃったかなと思いつつ、階段を上がって事務所の中に入った。


「あれ…?」


誰もいない…
みんなどこに行ったんだろ?


「あ、自宅の方かな」


私は階段を上り、ドアを開けた。


「…あれ?みんなもコナンくんのお見舞いに来たの?」


園子と少年探偵団の3人もコナンが心配で来たのかな。


「優月っ!…姉ちゃん…」
「あ、優月もお見舞いに来たの?」
「うん、コナンくんの具合が心配で来ちゃった!」
「よかった…」
「え?何がよかったの?」
「ううん!何でもないよ園子姉ちゃん!」
「…?」


もしかして私がお見舞いに来ないのかと思ってたから安心したとか?
えー、私ってそんなに薄情に見える?


「コナン君具合はどう?」
「大丈夫だよ。もう熱も下がったみたいだし」
「ホントに?よかったぁ…悪化してたらどうしようって学校でもずっと心配してたんだよ?」
「心配かけてごめんなさい…」


ふふっ!
新一の頭っていい形してるんだよねー!
撫で心地抜群!


「あ、そうだ!優月もうちでみんなと夕飯食べてって?」
「そうね!アンタも一緒に…」
「あ、ごめん2人共!今日は無理なんだ。今家で待たせてる人がいるから」
「えっ?」
「待たせてる人…?あ、もしかして江古田の黒羽くん?」
「うん。今日ね、快斗と一緒にうちで夕飯食べる約束してて、先にうちに行って貰ってるんだ」


ホントは新一のそばに居たいからここで食べたいんだけどね。
さすがにそれは快斗が可哀想だし…


「へぇ〜!まさかアンタ、本気でくら替えするつもりなんじゃ…?」
「ちょっと園子!」
「…」


くら替え…か。
そんなの有り得ないけどさ。
ついさっきの事が気になって否定するタイミング失っちゃったじゃん…


「折角のお誘い断ってごめんね?」
「ううん、それじゃあまた今度ご飯食べに来てね!」
「うん!じゃあ、コナン君の具合も良くなったみたいだし私は帰るね」
「うん、また明日ね!」
「バイバーイ!」


バタン…


さて、快斗がお腹空かせて待ってるから早く帰らないと!
夕飯、何にしようかなぁ…。
あ、またこっそり快斗の嫌いな魚混ぜちゃおうかな?
でもそんな事したらこの前みたいに家の中鳩だらけにされちゃうし…
あの後、掃除大変だったの快斗に言ったっけ?
えーっと…


「おい!」
「…え?」


後ろを振り返ると、新一が息をきらしながら裸足のまま立っていた。


「新一…どうし」
「何で黒羽なんだよ!?」
「え…?」
「何でアイツなんかと仲良くしてんだよ!?」
「……」


何?いきなり…
新一が何を思って突然こんな事を聞いてきたのか全く分からないんだけど…


「俺の代わりか!?アイツが俺に似てっから一緒にいんのかよ!?」


ここは否定しなきゃ。
そんな事あるわけないでしょって笑い飛ばさないと。


「……」


頭では分かってるのに、すぐに言えない自分に焦りを感じた。


「何で何も言わねーんだよ…」
「あっ…そ、そんなんじゃない、よ?快斗はただの友達、としか思ってない…って…」


自分でも声が震えてるのがよくわかる。
新一の目を真っ直ぐ見れない。


「…じゃあ聞くけど、何で目が泳いでんだよ…」
「っ!!」
「オメーこの間俺に言ったよな!?焦らなくていい、私なら大丈夫だって!あれは黒羽がいるから大丈夫だって意味なのかよ!?」
「っ、違うよ!そんな意味で言ったんじゃなくて純粋に…」
「じゃあ何でさっき答えなかったんだよ!?」
「それは…」


今この状況で、新一と快斗が重なって見えたなんて言えないよ…


「俺知ってんだぞ!オメーが頻繁に黒羽と会ってるって事を!」
「あ、あれは」
「あんなヤツのどこがいいんだよ!人の目欺く事を生き甲斐にしてる最低野郎じゃねーか!」
「快斗の事悪く言わないで!!」


いくら新一でも今のは許せなかった。


「さっきから何なの!?何で快斗の事そんなに悪く言うの!?最低なのは新一の方じゃない!」
「なっ!何だと!?」
「だってそうでしょ!?快斗がいたから新一は今生きてるんじゃない!少しは快斗に感謝すべきなんじゃないの!?」


快斗が私達の事を思いやってくれたから今があるんじゃない!


「…っざけんじゃねーよ!」
「きゃっ!」


ぶちっ


新一はいきなり飛び付いてきたかと思うと、私の首についてるネックレスを勢いよく引きちぎった。


「こんな物大事そうにいつも付けてんじゃねーよ!」
「あ…」


バラバラになったローズクォーツが、儚い音を立てて地面に落ちていく。
それを見た私は一瞬で思考が止まった。


「これのせいで俺はずっと」


ばしっ!


初めてだった。
他人に手をあげた事もそうだけど、こんなに心の底から新一に対して憎いと思った事なんて。


「いってー…テメェ何すんだよ!?」
「…最低」


私は薬指から指輪を取り、新一に投げ付けた。


「っ!」


指輪は新一の頬に当たり、小さく音を立てて地面に転がった。


「もう顔も見たくない。あんたなんか大っ嫌いよ」


怒りと悲しみで体が震えるのを感じながら家路につく。


「…有り得ない」


幻滅した。
あれは嫉妬からとった行動だったかもしれない。
でも仮にそうだったとしても、いくら何でも酷すぎる。


「…バカじゃないの?」


これは新一に向けて呟いたんじゃない。
今まであんなヤツに夢中だった、自分自身に対しての言葉だ。
あんなヤツとの将来を本気で考えてた、愚かな私自身に向けた言葉なんだ。


bkm?

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