smaragd | ナノ

Zauber Karte

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重なるモノ


「アンタいいでしょ?」
「んー」
「優月いいってー!」
「…って何が?」


1人怒りながらHRなんて聞き流しつつ、快斗とクルーズ船事件についてメールしてたら突然、園子が声をかけてきた。
私が顔を上げると……


「おっ、俺やる!」
「俺だ俺っ!」
「お前らバカじゃん!?適任はこの俺だろ!」
「「「バカじゃねーよ!俺がやるんだ!!」」」
「バカ、お前じゃなくて俺だ!」
「ふざけんなテメェ!俺に決まってんだろ!?」
「お前に務まるワケねぇだろーが!」
「何だと!?」


えっ?
何で急に男子達がケンカし始めてんの?


「こらぁーー!やめなさぁーーーいっ!」


蘭の一喝も虚しく、2年B組内は一気に戦場と化したワケで…


「よっしゃー!あたし気合い入れちゃうわよ!」
「何を?」


園子の意味不明なセリフが聞こえたりしたワケで…


「ま、いーや」


でも私は普通に無視してひたすら快斗にメールを送っていたワケで…。


「優月!頑張って覚えなさいよ!」
「…え?」
「楽しみにしてるね!」


そんな私の目の前に、ニコニコ笑顔の蘭と、鼻息を荒くした園子がバン!と机に手を叩きつけて突然現れた。


「…何を?」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「も、もしかして優月…聞いてなかった?」
「え?何が?」
「だから、今度の学園祭の劇!アンタ、ヒロインやんのよ!」
「……はあっ!?」


ヒロインって、あの目立たなきゃいけないヒロインの事!?


「私が台本書くから楽しみにしてて!ちゃんと台詞覚えなさいよ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「優月頑張ってね!」
「あっ、そうだ!蘭替わっ」
「ごめーん!私部活が忙しくてそれどころじゃないから…」
「そ、そんなぁ…」


これは私にとって拷問、いや、ジャンヌ・ダルクが民衆の前で火あぶりの刑にされるのと同じ位の苦痛かもしれない。


「へぇ〜、優月がヒロインねぇ…」
「もうおしまいよ…」


当日わざと風邪ひいて休んでやろうかな…って目論みながら、堤向津川のいつもの場所で快斗に愚痴を聞いて貰っている、そんな放課後。


「神は私を見捨てたのよ…きっと私、死んだあとも天国への階段を登る事すら許されないんだわ…」
「おいおい、何もそこまで…」
「もう何で私なのよ!最悪よ!私は村人Aとかその辺に突っ立ってる木とかでいいのにっ!」
「でもオメー、演技うめぇじゃねーか!この前だって最初は俺にうまく合わせてくれたし!」
「あれは快斗の邪魔したくなかったから必死だったの!」
「じゃあ今回は?クラスの為に必死になんねーのか?」
「うっ…」


快斗の口には敵わない…


「ま、台本出来たら俺が相手役の練習付き合ってやっからさ!頑張れよ、な?」


ポンッ!


快斗はそう言うと、手のひらから薔薇を出した。


「…快斗がそう言うのなら、まぁ…仕方ないわね!」
「へへ、じゃ行くか!」
「え?ドコに?」
「ドコって…決まってんだろ?いつものアイス屋だよ」
「……」


私達の間では、いつものアイス屋=私の奢りっていう図式が成り立ってる。
快斗がこのセリフを言うって事は、「俺への感謝の意を示せ」っていう意味。


「何で?」
「うわっ!優月ちゃん酷いっ!命の恩人に向かってそりゃ無いぜ!」
「いや、私は寧ろ快斗のせいで1回死んだし」
「へー…じゃあ聞くが、オメーの彼氏が海の泡になって消えなかったのは誰のお陰だ?んー?」
「うっ…」


確かにそうだけど!
快斗ったら毎回容赦無く頼むんだもん!
私にとっては痛い出費になるのにっ!
…でもまぁ、快斗には本当に感謝してるし、黙って感謝の意を表してあげるか。


「わかったよ…」
「やりぃ!」


って了承したのが間違いだった。
私はなんて浅はかだったんだろう。


「…快斗くん」
「んー?」
「それさ、何個目かな?」
「見りゃわかんだろ?10個目」
「うん、そろそろいい加減にしようか?ここのアイス高いんだよ?千円札が何人飛んだと思ってるワケ?」
「あのなー、オメーの彼氏の命がアイス10個分で済むと思ってんのか?」
「…」


こんなに食べてもまだ足らないのかアンタは。


「本当に勘弁して下さい快斗様…もうお財布の中空っぽです…」
「へっ、仕方ねーな。じゃあ優しい快斗様はこの辺で切り上げるとすっか!」
「…どうもありがとうございます」


アイス代、新一に請求しよう。


「その代わり!」
「…まだ何か?」
「今日の晩飯、オメーんちで食わせて!」
「……」


快斗のお母さんが海外で遊びまくってる事は知ってるけどさ…


「何で私がそこま」
「すいませーん!チョコアイスあと5個追」
「もうわかったから!ご馳走するからもうやめて!」
「サンキュー!」
「はぁー…」


ま、このままアイス追加されるよりはマシね。
下手したら一万円札まで飛んでいく勢いだし。


「んじゃ、そうと決まればオメーんち行こーぜ!」
「あ、その前に探偵事務所寄っていい?」
「へ?毛利のヘボ探偵に何か用事でもあんのか?」
「もう!小五郎ちゃんはヘボじゃないよっ!この前の船で珍しく名推理を披露したんだから!」
「珍しくって…」
「それに用があるのは小五郎ちゃんじゃなくて新一の方!」
「名探偵に?」
「そう。今風邪で寝込んでるの。心配だからちょっと様子見に行きたくて…」
「ふーん。アイツも風邪ひくんだ」
「…新一はバカじゃないもん」
「誰もんな事言ってねーだろ?…じゃあ俺は事務所の下で待ってりゃいいのか?」
「ううん、それは悪いからうちの鍵渡しとくよ。先に行っててくれる?」
「おっけー」


私は快斗に鍵を渡した。
まぁ、この人なら鍵なんかいちいち渡さなくても侵入できちゃうけど。


「…くれぐれも下着とか盗まないでね?」
「オメーなぁ!俺がいくらキッドやってるからってんな事しねーよ!」
「…盗聴機もつけないでよ?」
「あ、やっぱダメ?」
「か〜い〜とぉ〜!?」
「嘘、嘘!冗談だって!ほら、事務所まで送ってやっから機嫌直せよ」
「ちょ…」


私の手を引っ張って前を歩く快斗が、何故か高校生の新一に見えた気がした。


「…新一…」
「へ?何か言ったか?」
「あ、ううん…ごめん何でもない…」
「??」


まさか…そんなわけ無い、よ、ね?


bkm?

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