「……ん…?」
私は体に走る冷たい感覚で目が覚めた。
「…な、何よこれ!」
海水が太ももの位置まで…!
「は、早く出ないと!」
急いでドアを開けようと取っ手に手をかけた。
「ん〜〜〜っ!はぁ…ダメだ…」
外の水圧がスゴすぎて開けられない…!
「きゃっ!」
その時、船の傾きにつられて体が180度反転した。
ドンッ!!
体を強く打ち付けた私は、強い絶望感と孤独感に襲われた。
「……」
また、迷惑かけちゃった…。
−優月!オメーこんなところで寝てたら風邪ひくぞ!−
「…新一っ…」
−オメーに何かあったら、真っ先に俺が優月を助けてやっからさ−
薄れゆく意識の中、昔の記憶がよみがえった。
さっきは足しか冷たくなかったのに、今はもう首の辺りまで冷たくなっている。
辛うじて手には、快斗から貰ったネックレスが握ってあった。
…これだけは、無くしちゃいけない。
最後の力を振り絞って、手首に巻き付けた。
「ごめんね、新一…」
こんなに、手がかかる女で…
見つけて…くれるよね…?
守ってくれるって…約束、したもん…
信じてる…から…
「……!優月!」
っ…!?
「げほっ!げほっ!」
「優月!」
「優月姉ちゃん!」
口から塩辛い水が出たと同時に、会いたかった人物の声が聞こえた。
「…小五郎、ちゃん…コナンくん…」
「優月っ!よかった…!!」
私を抱き締める小五郎ちゃんは、服がボロボロでずぶ濡れだった。
「優月姉ちゃんっ!!」
「……」
私の手を握る新一も、ひどく濡れていた。
ちゃんと、見つけてくれたんだ…。
また新一に…。
助けられちゃったね…。
バリバリバリバリ…
…何の音?
「救助のヘリだ!」
「まずい…もっと上へ逃げよう!」
小五郎ちゃんは私を抱き抱えると、どこかへ走り出した。
ここから先はあまり覚えていない。
気付いたら何かにぶら下がってた。
多分、救助ヘリの…
「捕まれ!!」
ゆっくり目を開けると、新一が手すりからジャンプをしたところだった。
「!!」
落ちる!
パシッ
私は無意識に、新一の手首を掴んだ。
「…死なせたりしない。絶対に…」
生きる時は一緒だよ…
新一…
「おい優月、大丈夫か!?」
「っ!?」
新一の手が滑り落ちたと思った瞬間、ガクッと腕に振動が伝わった。
「あ…」
手元を見ると、快斗から貰ったネックレスが、私と新一を繋いでくれていた。
快斗の想いがつまったローズクォーツが、ライトに照らされてキラリと光る。
もし快斗が、これを私にくれなかったら…。
今ごろ…新一は……。
「…ボウヤ、手をのばせ!」
アフロディーテ号に乗っていた乗員乗客は、救助に来てくれた船で一夜を明かした。
船に乗せられた途端、凄まじい睡魔の波に呑まれ、私はすぐに眠りについた。
翌朝、一晩熟睡したお陰で熱もすっかり下がり、私はいつもの元気を取り戻した。
ちなみに、なぜ博士から貰った薬が効かなかったかというと…。
−優月くんすまんのぉ…実はあの薬、わざと悪夢を見る為に作った薬だったんじゃよ−
博士曰く、浮かれてる自分自身を戒める為に何となく作ったとか。
新一に渡す時に慌ててたから間違えたらしい。
もう呆れて何も言えない…。
小五郎ちゃんから色々話を聞くと、私を見つけた時は寿命が10年は縮んだとか。
何故なら私は心肺停止状態で発見されたから。
でも今私が生きてるのは、新一の必死の人工呼吸のお陰で。
新一の愛に感謝しつつ、蘭と園子と熱いハグを交わした。
「ってゆーか優月!」
「うん?」
「昨日ディナーしてる時さ、コナン君に手握られたじゃない?その後言ったセリフってどういう意味だったのよ?」
手を…?
「あぁ、そういえば話してなかったね。あれね、新一の事思い出したからなんだ!」
「新一君を?」
「うん。この前話した小学校での隠れんぼの話には続きがあって…」
─────────
「ほ、ほら!早く帰るぞ!」
「うん!」
「…優月」
「なぁに?」
「オメー熱あんじゃねーか?」
「ねつ?」
こつん
「っ!ちょ、」
「…結構あるな。のんきに外なんかで寝てっからだよ」
「ご、ごめんなさい?」
「ったく…余計な心配かけさせやがって」
「…ねぇ、どうして手を握っただけでわかったのー?」
「そっ、そんなの幼なじみだからに決まってんだろ!?俺はオメーの事は何でもお見通しなんだよ!」
「ふーん…あれ?新ちゃん顔真っ赤だよ?」
「バ、バーロ!何言ってんだ!これは夕日のせいだっつーの!」
──────────
「へぇ、そんな続きがあったんだ…」
「うん!」
「何かさ、コナン君て新一君みたいじゃない?」
「え!?そ、そう?」
「だって優月が体調悪いの気付いたし、隠れてた所見つけちゃったし!」
「た、たまたまよきっと!ほらコナン君って新一の親戚だから鋭いし!」
あ〜疲れる…
「でも残念ねぇ…優月が助かったのは嬉しいけど、優月を見つけて助けられるのは新一くんだけだと思ったのに」
「あはは…」
ズバリ今回もそのお方に助けられたんだけどね…
「何言ってるの園子」
「え?」
「昔も今も、優月を助けられるのはアイツだけよ。ね?優月?」
「あ、うん…」
蘭の言葉が少し気になりつつ、私達は博士たちがいるデッキに行った。
「あ、コナンくん!」
「優月姉ちゃん!もう具合大丈夫なの?」
「お陰さまで一晩熟睡したらスッキリ!」
「よかった!僕、安心したよ」
「あ、それよりコナンくん!!」
「わっ!な、何?」
抱き着かずにはいられないよっ!
「ありがとう。私を生き返らせてくれて…」
「…そんなの、おあいこだよ」
「…え?」
「優月姉ちゃんだって、僕が落ちそうになった時助けてくれたじゃない」
新一…
「バカね、当然でしょ…?」
あの映画みたいな結末には、したくなかったんだから…。
「…じゃあ僕も当然の事をしたまでだよ、優月姉ちゃん」
そう言ってコナンくんは微笑んだ。
何故か私には、その表情が高校生の顔に見えた。
「でもさ、よかったじゃん貰っといて!」
「…え?」
「だってこのネックレスのお陰だったんでしょ?ガキンチョが助かったのは!」
園子が私の首元を指さして言った。
「…だってこれは、アイツの愛が沢山つまってるんだもん」
私を思いやってくれる、「友情」という名の愛が…。