日下の話をまとめるとこういう事。
15年前、貨物船が氷山に衝突した事故はやっぱり判断ミスなんかでは無かった。
当時、八代商船の社長と専務だった会長と貴江社長は、保険金目的で貨物船を沈める事を計画した。
しかも当時、副船長だった海藤渡をも抱き込んだ。
海藤が話に乗った理由は、日頃、乗組員の待遇改善などを訴えていた沖田船長が疎ましかったから。
ついでに半月前に亡くなった、設計士の八代英人氏もこの計画に賛同。
利害が一致した4人は、貨物船をわざと沈没させる事を計画した。
海藤はまず、睡眠薬で沖田船長を眠らせた。
そしてわざと氷山に船を衝突させ、八代英人氏が予め指示をして仕掛けておいた爆弾を爆破した。
これが15年前の真相。
「八代会長はどうやって殺害したんだね?」
「フン…巴投げの要領で海へ投げ飛ばしてやったよ…そしてお前がやったようにこの船を爆破し、混乱に乗じてお前を殺すつもりだったんだ!」
バカじゃないの!?
関係ない私達を巻き込むのはやめてよねっ!
「待ちなさい!とにかくそのリモコンのボタンから指を離しなさい!」
「うるさい!近づくな!」
後ろから日下を取り押さえようとした男は見事に失敗。
交わした拍子に日下はスイッチを押してしまった。
ズズズズズズッ!!
「わっ!」
どこかで爆発した…!
フッ、と電気が消えて再び明るくなったと思ったら日下は逃げた後だった。
「いないぞ!」
日下は出口に向かって走り去った。
「逃がすか!」
「あ、コナン君!」
私も追いかけようと踏み出した瞬間、急に激しい目眩が私を襲った。
あ、このまま地面に倒れると思ったけど、体には全く痛みが無かった。
「優月っ!しっかりして!」
「っ……」
蘭が、受け止めてくれたんだ…
「アンタ具合悪いんだから追い掛けたらダメよ!」
「……」
新一…
絶対…日下を捕まえてね…
私はこの時、気が付いていなかった。
この言葉を実際に声に出してしまっていた事に…
−乗客の皆さん、一等航海士の伊沢です。全員、救命胴衣を着用の上、1階ボートデッキに出て下さい!これは訓練ではありません!繰り返します…
処女航海で沈没するなんて、まるでタイタニックと同じじゃない…!
「…優月行くよ!」
「…え?」
蘭は急に私を抱き抱えた。
「園子は先に1人でデッキに行ってて!!」
「えっ!?蘭はどこ行くの!?」
「優月の分の救命胴衣を取りに行かないと!部屋には2人分しか無いでしょ?1人でこの子を行かせるワケにはいかないから!」
「…わかった!ボートデッキで待ってる!」
「うん!」
私達は部屋に入り、救命胴衣を着けた。
「処女航海で沈没する事になるなんて…まるでタイタニックだね」
「うん、私もさっき思った。でもタイタニックと違う所は、沈没の原因は爆弾のせいって事と、船の名前がアフロディーテ……あっ!!」
私は快斗から貰ったネックレスを、上着のポケットに入れたままだった事を思い出した。
でもポケットをいくら探しても見つからない。
「優月どうしたの?」
「無いの…友達から貰ったネックレスが…。どこ行っちゃったんだろう…」
どうしよう…
せっかく快斗が作ってくれたのに…!
「おい、行くぞ!急げ!」
「あ、うん…優月、行こう?」
「…うん」
私は諦められない気持ちのまま、ボートデッキに出て園子と落ち合った。
でも新一と少年探偵団の姿がどこにも見えない。
「小五郎ちゃん、コナン君達は?」
「アイツらなら大丈夫だ!目暮警部からの連絡で、日下を追っかけてモーターボートで出たところを、近くを通ったクルーザーに拾われたそうだ…」
「よかったぁ…無事に捕まえたんだ…」
私達はボートに乗り込んだ。
「蘭!優月!お前達はこの船で脱出しろ!!」
「「えっ!?」」
「小五郎ちゃんは!?」
「俺は別の船で行く!じゃあ後でな!」
「お父さん!」
ちょ、これタイタニックのあのシーンと一緒じゃない!
「ママー、このボートからだと夕焼けが見えないよぉー」
「こらっ!こんな時に何言ってるの!今はそんな場合じゃないでしょ!」
夕焼け…?
空……
「あっ!思い出した!」
「え?何を?」
「ネックレスを落とした場所よ!隠れんぼの時に落としたんだ!」
「それじゃあ降ろします!しっかり捕まって…」
「あ、ごめんなさい!私降ります!」
「ちょっと優月!」
「取ってくるから先に行ってて!」
私はボートを降りようと身を乗り出した。
「でもあれは…」
「…確かに、新一以外の男性から貰った物よ。でもね、私にとっては大切な宝物…彼の想いの象徴なの。じゃあ後でね!」
「ちょっと優月!」
急いで隠れていた場所に走った。
でも…
「うわっ!水が…」
私が隠れていた場所は、既に膝ぐらいの位置まで海水が入り込み始めていた。
でも、こんな事で諦めるなんて出来なかった。
「うぅ…冷たい!」
ドレスを捲り上げて進む。
そして隠れていた場所を見回した。
「えーっと……あっ!あった!よかったぁ…」
ネックレスを掴んだその瞬間…
グラッ…
「わっ…!」
突然船が傾き、私はバランスを崩した。
ガンッ!
「っ!!」
私は頭を強打し、その場で意識を失った。