「いやーーっ!!」
自分の声がけたたましく部屋に響き渡る。
「はぁ、はぁ…あ、新一っ…」
部屋を見回してもやっぱりいなかった。
「私…別れたく、ないよ…」
涙が溢れて止まらない。
「そ、そうだ!指…輪…」
左手を見ると指輪、じゃなくメモ用紙が握られていた。
「え…?何、これ…」
メモには「日下の部屋に行ってくる。すぐ戻るから部屋にいろよ」と書かれていた。
「…あれは、夢?」
そうか。
確か子供の頃の事を思い出してたら、いつの間にか寝ちゃったんだ…。
ああ、何ていう悪夢なの。
あんな夢、もう2度と見たくもない…。
「よ、良かった……」
今度は安堵の涙が溢れてくる。
本当に良かった。
この手に握っている物が指輪じゃなくて…。
「…あ、そうだ」
蘭と園子に会ってない…。
会いに行かないと。
でも新一は部屋にいろって…。
「…すぐ戻ってくればいいよね?」
汗でベトベトになってる顔を洗ってから部屋を出た。
コンコン
「はい…あっ!優月!」
「えへっ…」
何か気まずい。
色々な意味で。
「優月ったら!どこ行ってたの心配したんだよ!?」
「蘭、ごめんね?隠れんぼしてたら寝ちゃって…」
「えっ、寝てたの!?」
「う、うん…」
「はぁ〜、もう優月ったら…」
「ほ、本当にごめんね?」
「…ううん!何も無くて良かった!さ、入って!」
「お邪魔しまーす」
部屋に入ると、ベッドで横になってる園子と目が合った。
「優月!アンタどこ行ってたのよ!?」
「あ、心配かけてごめんね?実は隠れんぼで寝ちゃって…」
「はぁ〜…もうビックリさせないでよ…」
「ごめんね…。それより具合はどう?園子…」
「うん、もう大丈夫…」
「そっか、よかったぁ無事で…」
ベッドの横に置いてある椅子に座って園子と蘭と少し話した。
うん、顔色も普通だしもう大丈夫そうね。
「あ、ねぇ優月」
「うん?」
「隠れんぼ始めた時さ…」
−あら、残念ながら−
「あの後何て言いかけたの?」
あー、その話か…。
「さっき、小学校でも隠れんぼやった事あるって言ったじゃない?」
「うん」
「あれね、小1の時の校庭開放の時だったの。その時、蘭と一緒に新一も誘ったんだけど…」
─────────
「ねぇ新一、聞いてるの!?」
「新ちゃん!隠れんぼしよう!」
「わりぃけど俺はパス!サッカーの試合が近いんだ」
─────────
「なっまいき〜!アイツ、ガキんちょの時からそんな事言ってたの!?」
「そうなの!生意気でしょ?私頭にきたから蹴り飛ばしてやろうと思ったらさ、優月が泣いて止めに入るんだもん…」
────────
「ちょっと新一!何なのよその態度!」
「ら、蘭ちゃん…」
「はぁ?んだよ!いちいち突っ掛かってくんじゃねーよ!」
「し、新ちゃんまで…」
「ふん!その生意気な口、今すぐ叩けなくしてやるんだから!」
「うわっ!」
「蘭ちゃんやめてよぉ〜!新ちゃん試合に出られなくなっちゃうからダメ〜!」
─────────
あはは…。
そういえば蘭怒ってたよねぇ…。
「それでね、仕方ないから新一抜きでやったんだ」
「でも私は運悪く見回りに来た先生に見付かっちゃって…」
「え?先生に?」
「うん、体育館の舞台の下、収納スペースになってたじゃない?」
「ああ、折り畳み椅子とか入ってたっけ?」
「そうそう、絶対に見付からないって思って、自信満々に隠れたのに見付かっちゃって…悔しかったなぁ〜あの時は!」
そういえば蘭、すっごく悔しがってたような…。
「へぇ〜…それで?」
「でね、校庭に出たらまだ優月だけ見付かってなかったの。だから私も一緒に探したんだけど、開放時間が終わってもなかなか見付からなくて…」
「えっ?アンタどこに隠れてたのよ?」
「体育館の屋根の上だよ」
「や、屋根の上!?」
「うん!そこなら絶対見付からないと思って…」
本当はそれだけじゃないんだけどね。
「でもさ、どうしてなかなか見付からなかったの?屋根の上なら蘭達を呼べたでしょ?」
「それがね、優月ったら屋根の上で寝ちゃってて…」
「…はい?」
「えへへへっ、寝転がって空見てたらいつのまにか意識が…」
「…アンタって昔からすぐ寝るタイプだったのね…」
「ふふっ!でね、私もみんなもいくら探しても見付からなくて、どうしようって困ってたら…」
「新一が簡単に見つけ出してくれたんだ!」
「へぇ〜!」
「でね、蘭を家まで送った後の帰り道に、どうして私が隠れてた場所がわかったの?って新一に聞いたの。そしたらね…」
─────────
「学校の神隠し…」
「え?」
「あの映画で校舎ん中に隠れてた子供達はみんな消えていなくなっちまっただろ?って事は、オメーが校舎ん中に隠れる可能性はゼロ…」
「ねぇ新ちゃん!どうして優月があの映画見た事知ってるの?」
「前にあの映画のコマーシャルがテレビで流れた時、怯えた目して見てたからな…オバケが怖いクセにああいうのは必ず見るんだよオメーは…で、そーなると隠れるのは校舎以外!動物好きのオメーが、うさぎを驚かしちまう飼育小屋に隠れるワケねーし、あん時陸上部の上級生達が片付けやってたから、体育用具室に隠れて出られなくなるワケがない…プールは今工事中で、残るは体育館!」
「あれ?じゃあ何で体育館の中探さなかったの?」
「体育館で隠れる場所といったら舞台下ぐらいしかねーだろ?でも暗くて狭い場所が苦手なオメーがそんな場所に隠れるワケがない…あそこに隠れるヤツといったら、神経が図太い蘭ぐらいだしな…だからもうあそこしかねぇと思ったんだ!オメーいつだったか、用務員のおじさんが屋根の上を修理してる所をチラチラ見てたしな!傍には高い木もあるし、木登りが出来るオメーならそこから簡単に飛び移れるって思ったんだ!」
「……」
「どうだ?驚いたか?」
「し、新ちゃんすごいね!ほーむずみたい!」
「そ、そうか…?」
「うん!すごくかっこいいよ!ありがとう新ちゃん!」
「…ほ、ほら!さっさと帰るぞ!」
「うん!」
─────────
「…で、仲良く手繋いで新一のうちに帰ったんだ!」
「はいはいご馳走様!じゃあさっきのセリフは、私たちの勝ちね!だって、私を見つけられるのは新一だけだもん!…ってわけね?」
「えへへ!当たり!」
「そっかぁ…だから優月を簡単に見付けられたのね!」
「あれ?蘭知らなかったの?」
「新一ったら何回聞いても教えてくれなかったのよ!」
えっ、何でだろ?
恥ずかしかった…とか?
「あ、でも別の日にした隠れんぼで1回だけ教えてくれた事があってね…」
「別の日に?」
「ほら、杯戸公園で優月が木に登って降りられなくなった時!」
「あぁ、あれね!そういえば何で新一は見付けられたのか聞いてなかったなぁ…」
「あのね、優月を家まで送った帰り道の話なんだけど…」
─────────
「ねぇ、どうして優月があの木に隠れてるってわかったの?」
「あ?…簡単だよ。この前アイツに木登りの仕方を教えてやった時に、公園で1番デカいあの木を見ながら登ってみたいってアイツが呟いたの思い出したんだ…」
「ふーん…ってゆーか私見ちゃったんだけど?」
「は?何を」
「新一、あんた優月と抱き合ってたでしょ?」
「なっ…!何で知ってんだよ!?オメーが戻ってくる前に離れたのに…」
「新一のお母さんを呼びに行って、一緒に公園に戻ってきた時に見ちゃったんだ〜!」
「か、か、母さんと!?」
「そうよ!新一のお母さん、"2人の邪魔しちゃいけないから、蘭ちゃんは2人が離れるまで待ってましょうね〜"…ってニヤニヤしながら帰ってったよ?」
「げっ…!」
「あれれ〜?新一ったら、顔赤いよ〜?」
「バ、バーロ!何言ってんだ!夕日のせいだっつーの!」
──────────
「へぇ〜、じゃあ昨日言ってたあの時と同じって、その時の事だったんだ?」
「うん!」
なるほど。
だから次の日有希ちゃんったらあんなにニヤニヤしてたんだ…
それにしても良かった!
謎が解明できて。
「ねぇ、あの時2人で何話してたの?遠かったからよく聞こえなかったんだけど…」
「えへへ、それは新一と私だけの内緒!」
「あ、ずる〜い!」
「ねぇ、5時からウェルカムパーティーよね?早めに支度した方がいいんじゃない?」
ウェルカムパーティーかぁ…
まだ熱下がらないけど、1人で部屋にいたくないし、参加しようかな…