「…ぅ、ん…」
顔に何かが当たる感触で目が覚めた。
「…起きたか?」
ふわふわする…。
「眠たい…」
「でももうすぐ日が出るぜ?」
そっ、か…
「……くー…」
「……起きろーーっっ!!!」
「ひゃあっ!!」
「へへへどーだ?おっちゃんの声だと眠気吹っ飛ぶだろ?」
「もうっ!バカバカバカ!普通に起こしてよっ!」
「痛ててて!悪かったって!でもオメー普通に起こしても起きねぇじゃねーかよ!」
「…ふんっ!」
絶対寿命縮んだなって確信しつつ準備をして、私達は米花霊園に向かった。
「…ちょうど朝陽が出てきたね」
「何かあの頃の事思い出すな?」
「フフッ、そうだね。新一が顔を真っ赤にしてたのもよく覚えてるわ」
「バッ、バーロォ!何言ってんだ!あれは朝陽のせいだっ!」
「はいはい」
朝陽は赤じゃなくて白だよ新一さん。
「オ、オメー今笑っただろっ!?」
「えー?笑ってないよー?」
「〜〜〜っ!」
ってゆーかもう付き合って結構長いんだから今更照れる事ないのに。
「…あれ?新品のお花が供えられてる…」
「って事は誰か来たんじゃねーか?」
親戚の誰かとかかな…?
「あ…これ…」
「へ?」
コーヒーとミルクティーの缶が供えられてる。
って事は…。
「大越さんと中屋さん、元気になったみたいね…」
「ああ、そうみてーだな…」
「じゃあ新一はお水汲んできてくれる?」
「おー」
新一にお願いした後、お花とさっきコンビニで買ってきた缶コーヒーとミルクティーを供えた。
「フフッ、これじゃあパパとママ、お腹タプタプになっちゃうねー」
私はしばらく墓石を眺めた後、手を合わせて目を瞑り、2人にお礼を言った。
『……』
ふと隣を見ると、新一も目を瞑って手を合わせている姿が目に入った。
だけど私は、すぐに前を向いた。
理由なんてない。
ただ何となく、見ちゃいけない様な気がした。
私は黙ったまま桶を手に取り、木尺で墓石に水をかけた。
そして線香に火をつけた。
ゆらゆらと煙が舞う。
その煙が、朝焼けの空に吸い込まれて行くのを、ただじっと見つめた。
「…なぁ優月…」
『ん…?』
「オメーの両親が生きてたらさ、許してくれると思うか?俺達の結婚…」
『…多分、ママは有希ちゃんみたいにテンション高くなると思うけど、パパは大反対してるんじゃないかな…』
「ま、マジ…?」
『うん。だって小さい頃にパパ言ってたもん…』
「ま、まさか俺の事嫌いってか!?」
『フフッ、違うよ…自分に似た人には私を渡したくないんだって言ってた…』
「へ?どーゆー意味だ?」
『どっかの誰かさんみたいに、仕事人間で自分の大切な人を放っておくような男はダメって事よ…』
「…あのなぁ、俺はそんな男じゃねーよ!」
『あら、それはどうかしら?今でさえ事件の事になると目キラッキラさせて飛び出して行くじゃない…結婚なんかしたら放置されっぱなしだと思うんだけど?』
「うっ…それは否定できねぇかも…」
『フフッ!でもね、私思うんだ…』
「え?」
私は、さっき供えたばかりの缶コーヒーを新一に差し出して、自分もミルクティーの缶を手に取った。
『結婚相手が新一なら、私の理想の夫婦になれるってね!』
だって私達、似てるから。
この2人に…
「…なるほどな…良い夫婦になれるな!」
『フフッ!』