smaragd | ナノ

Zauber Karte

http://nanos.jp/968syrupy910/

闇に射す光


私はしばらく埠頭の周りを旋回してみたものの、やっぱり埠頭は真っ暗のまま…。
暗闇に包まれた埠頭は、まるで地獄への入り口が私達を待ち構えているかの様に、ポッカリと開いている様に見える…。
暗い埠頭を見ているうちに、徐々に絶望感と死への恐怖で、心が埋め尽くされていくのがわかる…。
私の手には、乗客の運命が委ねられてるんだ…
大勢の人間の生死がかかってるんだ…
そう考えると、耐えきれない位に心が押し潰されていくのが分かる…
もし、失敗したら…
もし、墜落したら…
そんな事ばかりを考えてしまう。
怖い、怖い、怖い…
2文字の言葉が、さっきから脳内を駆け巡って、私の手足をガタガタと震え上がらせる。
掌には汗が滲み、有り得ない程に震え、操縦桿を握っているのも精一杯な状態…。
私も、両親と同じ運命を辿ってしまうの…?
まだ死にたくない…。
死にたくないよ…!
パパとママは死ぬ直前、こんな絶望感でいっぱいだったの?
こんな…こんなツラい気持ちのまま2人共死んで行ったの!?
私には…みんなを助けてあげる事なんか出来ないよっ…!!


「大丈夫?優月姉ちゃん…」
「どうしたの?優月…」
「……ダメ…」
「え?」
「…私…出来ない…」
「優月…しっかりして…!」


出来ないよ…!
私もパパやママと同じように死んじゃうんだよ!!
出来るはずが無いよ…。
無理よ…。
もう限界…。
私は出来ない!
パパみたいになんて…出来っこないよ!


ピーーッ…


「え…?」
「もしもし!?」


無線が…どうして?


「優月…」


えっ…!?


「…聞こえるか?優月…!」
「えっ…し、新一?」


隣を見ると、いつの間にか蘭が座っていた。


「えっ?ど、どうして…?だって…」
「オメーが不安になってんじゃねーかと思ってな…」
「新一!?今どこから…」
「蘭か…今、札幌コントロールからかけてんだ…何だか、大変な事になってるみてーだな…」


あ、そっか…。
私の様子に気が付いて、わざわざキャビンから…。
私が新一の声を聞くと落ち着くの、わかってるもんね…。


「優月、心配すんな!俺の父さんからみっちりと着陸の操作を教わっただろ?だから大丈夫だ!」
「……」


違うよ、新一…。
私はただ、怖いってだけじゃないんだよ…。


「聞いてっか?優月…」
「優月…?」
「ちょっと優月…返事したら…?」
「……ねぇ、新一…」
「…ん?どうした?」
「…パパは…どんな気持ちで…死んでいったのかな…?」
「えっ…?」
「…どうする事も出来ずに…何もかも、諦めて…死への恐怖に震えながら…死んでいったのかなぁ…まるで、今の私みたいに…」
「バーロォ!何言ってんだ!!」
「…え?」
「オメーの父さんは絶対にそんな気持ちで操縦桿を握ってなかったはずだ!」
「な、何言ってるのよ…そんな事わから」
「これは憶測で言ってるんじゃねぇ!だったら何で未だに奇跡のパイロットって謂われ続けてんだ!?」
「…っ!!」
「あれだけの大事故で死亡者が130人で済んだのは、ただ優秀だっただけじゃねぇ!…オメーの父さんは、乗員乗客を1人でも多く救おうと最後まで諦めなかった…愛する娘であるオメーが待ってるから死ぬ直前まで諦めず、必死に頑張った…だからじゃねーのかよ!?」
「……」


こんな簡単な事、普段の私ならすぐに気付けたはずなのに…。
簡単に気付かないほど、私の精神状態は限界だったんだ…。


「…帰ったら…」
「え?」
「帰ったら、一緒にお墓参りに行こうね、新一…」
「…ああ!オメーなら必ず着陸できる!俺は信じてるぜ!!」
「…うんっ!」


ふと窓の外を見ると、赤い光が帯のように動いているのが見えた。


「…新一!パトランプの帯よ!」
「何っ!?」


あ…そういえばあの埠頭の話のあと、パパが言ってた…。


─────────


−しかし、さすがのパパでも埠頭に着陸する時はもうダメかと思ったよ…−
−え?どうして?−
−埠頭の周りには明かりが一切無かったからね…。もう死ぬしか無いのかと絶望的だった…−
−じゃあどうやって降りれたの?−
−それがね、今でも不思議なんだよ…−
−えっ?−
−無数のパトランプが埠頭の周りに止まってくれてね…−
−ぱとらんぷ?−
−パトカーの赤い光の事さ。あれのお陰で着陸出来たんだよ−
−す、すごいね!でも何でそんなにいっぱいパトカーがいたんだろ?−
−さぁ…。今でもわからないんだ…−


─────────


ああ、そういう事だったんだ…。


「蘭!着陸態勢に入るわよ!」
「えっ!?どういう事!?」
「その光は、キッドが引き連れてきたパトカーだ!」
「キッドがパトカーの光で滑走路を作ってくれたの!」
「さすが私のキッド様だわ!そうだと思ったのよ!」


園子ったら…さっきは最低呼ばわりしてたクセに。


「優月、もう一度左に旋回だ!」
「オッケー!!」


bkm?

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -