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Zauber Karte

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最初で最後の恋人


さっきから新一ったら鋭い目つきで樹里さんの右手をガン見してるけど、文句言われたらどう言い訳するつもりなのよ…。


「…樹里さんの右手に穴あいちゃうよ?」
「その位が丁度いーんだよ!」


あ…樹里さんも耳抜きしてきたのかな?
さっきから気分悪そうにしてたし。
女優さんだもんね。


「ちょっと真佐代さん、チョコレート…」
「あ…」


えっチョコ!?
食べたい!!


「真佐代さぁん…」
「はい、何でしょう?」
「私もチョコ食べたいな〜なんて…」
「えぇ、どうぞ召し上がって下さい」
「わぁ、美味しそ〜!ありがとうございます!」


えへへっ!
甘いもの好きには堪らない!


「…あれ?」


国内線なのにコックピットへサービス…?
あ、樹里さんがコックピットに…。
何でだろう…?
あっ、あの人…!


「中屋さんもお久しぶり…」
「ジョゼフィーヌ観ましたよ!」
「ああ、あれは素晴らしかったな!」
「大越さん!中屋さん!」
「…ん?キミは…!花宮の娘の優月ちゃんじゃないか!!」
「え、優月ちゃん!?」
「はい、ご無沙汰してます…」
「こんなに大きくなって…しかし驚いたな、キミのお母さんによく似てきた…」
「ホントですね…見違えたよ…いつ日本に?」
「高校入学と同時に帰ってきました」
「キャプテンと中屋さん…花宮さんとお知り合いだったんですか?」
「知り合いも何も」
「樹里さん、私の名字でわかりませんか?」
「え……あっ!まさか!?」
「航空会社の間で語り継がれている、奇跡の腕を持った名キャプテン…」
「さすが花宮だ…。あの状況下の大事故にも関わらず、516人中死傷者が130人で済んだのは正に奇跡だったからな…」
「へぇ…驚いたわ!まさか花宮キャプテンに娘さんがいたなんてね…」
「父は職場ではあまり家族の事を話す人じゃなかったので…」
「毎年、大越キャプテンと一緒にお墓参りに行かせてもらってるよ」
「ありがとうございます。父も、喜んでいると思います」
「そういえば…今は高校生探偵をやってるそうじゃないか?」
「あ、はい…」
「さすが花宮夫妻の娘だ。あの2人もとても優秀だったからな…」
「あ、優月ちゃんってあの高校生探偵の工藤くんと付き合っているんでしょう?」
「な、中屋さん…」


インタビューの影響がここまで来てるなんて…。
やっぱりあの男の取材、受けるんじゃなかった!


「ははは…これからもキミの活躍を応援してるよ」
「ありがとうございます、大越さん…中屋さんも、お体に気を付けてお仕事頑張って下さいね」
「ありがとう優月ちゃん…」


私は2人と握手を交わした。
そして去り際、2人が樹里さんの右手にキスをするのを横目に見ながら席に戻った。


「…お父さんの同僚か?」
「うん、キャプテンはパパの先輩だったの。中屋さんはパパの後輩でママと同期。4人みんな結構仲良かったんだ!」
「へぇ…」
「…パパとママが亡くなった日、仕事が終わった後急いで病院に来てくれてね…普段は落ち着いてる2人が取り乱してるのを見た時は驚いたなぁ…」


あの日の事は、今でも鮮明に覚えてる。
男の人があんな風に泣き崩れるとこなんて、そう見る事なんて無いし…。


「…そういえば」
「うん?」
「久々に行かねーとな。墓参りに…」
「…え?」
「中学ん時までは毎年行ってたんだけどさ、高校入った途端、忙しくなっちまって行けてねーし…」
「新一…毎年、行ってくれてたの…?」
「ったりめーだろ?優月の両親は、俺にとっても"両親"なんだから…」
「……ありがとう、新一…」


今度、パパとママに会わせよう。
私の人生で、最初で最後の恋人だよって…。


bkm?

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