「将軍、一曲踊っていただけませんか?」
「喜んで…」
やっぱり舞台って素敵だ。
人を惹き付けて、その世界の虜にさせてしまう力を持ってるんだもの。
きっと役者達は、自分の役に成りきって、楽しく演じてるんだろうな…。
私も舞台に立ってバイオリンを弾いてる時は、ちゃんと聴いてる人の心を惹き付けられているのだろうか…。
……ってゆーか、NYみたいに事件なんて起きないよね?
事件に好かれてる新一や小五郎ちゃんもいるし…。
何か起こったらめんどくさいなぁ…。
「…優月」
「ん?」
「後で電話する…」
「え…?あっ、ちょっ…」
ちょっとー!
いきなりどこ行ったの!?
あ…そっか!
快斗がいないって事は追いかけたのね。
ってゆーか新一、あんまり怒ってる雰囲気じゃなかった…。
ま、まさか後でいきなり爆発したりしないよね?
うわぁ、想像したくない…。
あ、そういえば、なつきさんに会った時少し胸騒ぎがしたんだけど、何だったんだろ?
でも、いつもの予感とはちょっと違う気がするのよね…。
うーん、わかんないなぁ…。
まぁ…別にいっか。
「この世界の全てのもの…。栄光!勝利!未来は私のものだ!」
「そして、私達のもの!」
あれ?
え?ウソッ!!
色々考えてたらいつの間にか終わっちゃったよっ!!
あーあ、残念…。
「優月、コナン君どこ行ったか知らない?」
「え?あ、ああ…。えーっと、何か僕ちょっと用事思い出したー!って言って出て行っちゃったよ?」
「えー!?1人で!?」
「あ、でもコナンくんならしっかりしてるし大丈夫よ!今日うちに泊まりに来るし、真っ直ぐうちに来るんじゃないかな?」
「…そぉ?ならいいけど…」
♪〜
あ、新一からだ…。
「はいはーい」
「オメー今どこだ!?」
「え?今まだ汐留だよ?」
「っし!セーフ!」
「え?何が?」
「いや…実はさ、ゆりかもめの上でキッドに逃げられちまってよ…」
「…相変わらずアクティブね…。今どこ?」
「…」
「…おーい」
「…豊洲」
「…はぁ!?」
豊洲って…終点の!?
「まぁ…詳しくは後で話すよ」
「はぁ〜…わかったわ。じゃ私は家で待っ」
「あぁーーっ!まだ切るな!」
「え?まだ何かあるの?」
「…豊洲まで迎えに来てくんねぇか?」
「はぁ!?何でよ!自分で帰って来ればいいじゃない!」
「いや、それがさ…ビルから落ちた時財布落としちまってよ…帰るに帰れねぇんだよ」
「……」
この人、たまにアホだと思うのは私だけ?
「…豊洲着いたら電話するから」
「サンキュー!」
あの突っ走り探偵!!
ここから結構離れてるじゃない!!
あ、財布無くなったんだったら今度買ってあげようかな…………ってちょっと!
私ってどこまでお人好しなのよ!
−次は、豊洲、豊洲…−
無事に豊洲で合流して、ヘトヘトになりながら帰宅し、ヘトヘトになりながらお風呂入って、ヘトヘトになりながらコナン君の愚痴を聞いてあげた私…。
結局、何で豊洲まで行ったか聞いたら快斗に逃げられた後、色々考え事してたらいつの間にか豊洲にいたってワケ…。
ってゆーか何で電車の上で考え事なんか出来るの!?
思考回路どーにかなってんじゃない!?
まったく…勝手に突っ走るのはいいけど、他人を巻き込むのはやめて欲しいわよ!
それに!
空中で快斗に麻酔銃打ったとか何してんのよ!?
この人、快斗を殺す気!?
ホントに捕まえる気あるの!?
有り得ない…。
「…おい」
「え?」
「例の事、説明しろよ」
「…」
もう寝ようと思ってベッドに入ろうとした途端これだよ!
もう明日でいいじゃない!
…って言うと、後が怖いし言えない。
素直に話すのが一番いいかもね…。
「あ、あのね…」
「…」
「実は…キッドは」
「黒羽快斗…だろ?」
「えっ!?気付いてたの!?」
「中森警部が引っ張っても変装が解けなかったのは何故か…それはつまり、俺に顔立ちが似てるから…と言うことは、この前会った黒羽しかいねぇって思ったんだよ」
「さすが新ちゃん!」
「…俺がわからねーのは」
「うん?」
「何でオメーが演技してまでアイツを庇ってたかって事だ…」
「…」
「親友が犯罪を犯してたらフツーは止めるだろ?何でアイツに協力したんだよ?」
「…全部話すよ…」
私はまず、なぜ快斗がキッドをやってるかを話した。
盗一さんの事、組織の事、パンドラの事…。
そして、私は探偵の前に1人の人間。
快斗の親友として、彼を応援してあげたい事…。
盗一さんの仇を取って欲しい事…。
全て包み隠さず話した。
新一はその間ずっと、黙って聞いてくれてた。
「…これが全てだよ…」
「…ホントか?」
「うん…もう何も隠してない…」
「……」
探偵なのに最低だって思われてるよね…。
理由はあれ、犯罪者を応援してるんだもん、軽蔑されてもおかしくないよ…。
「…俺さ」
「…」
「…オメーの事、最低だとか思ってねぇから」
「…え?」
「確かにオメーは探偵だが、親友としての立場を優先したんだろ?…だったら俺は何も言わねぇよ…」
「新一…」
「…だが俺はキッドを捕まえる。アイツが犯罪者には変わりねぇからな…」
「うん…」
「…オメーはそれでいいのか?」
「うん…私は快斗も新一も、両方応援するよ…」
「そっか…」
新一って、やっぱりすごい。
私が新一の立場だったら、多分、こんな事言えないかもしれない…
人間として尊敬できる人だとつくづく感じた。
「あ…そろそろ寝よっか?電気消すね」
「は?オメー何言ってんだよ?」
「え?」
「まだやる事残ってんだろ?」
やる事………?
あっ!
わ、忘れてた…!
「…あ、い、いや今日はもう遅」
「さて…薬飲んでくるから服脱いで待ってろ」
「は!?」
「オメー、俺に感謝しろよ?アレ飲むの結構ツラいんだぜ…?」
「じゃあ飲まなくていいよっ!もう今日は疲れ」
カチッ
「ひっ…!」
と、時計型麻酔銃構えるとかナニ考えてんの!?
「…コイツでオメーを眠らせてから好きなように弄ぶのも、悪かねーな…」
「ちょっと待って!大事な事忘れてないかしら?」
「は?」
「その麻酔銃はもう使えないわよ?だってさっきキッドに1本打ったんだからね!」
「……」
わぁ!
あたし今日冴えてる!
「ハッ…残念だったな」
「えっ?」
「こんな事もあろうかと、予め博士から貰っといたんだよ。予備の麻酔針をな!」
「げっ…!」
こいつ、やっぱスゴイ…!!
「さぁどうする…?コイツをブチ込まれて俺に廃人にされるか、素直に従って失神寸前までヤられるか…」
「くっ…!」
どっちも嫌だって言った瞬間、絶対に眠らされる…!
「5…4…3…2…」
「し、従います…」
「ったく…余計な手間かけさせんじゃねーよ…じゃ、ちゃんと脱いどけよ?」
バタン
うぅ…もう寝たいのに…。
ヘトヘトになって新一に尽くしたのに…。
何でこうなるのよーっ!!