smaragd | ナノ

Zauber Karte

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噛み締める幸せ


『はぁ〜〜…』

やっとベンチに座れた…
蘭がいて良かったぁ…。

「優月、体大丈夫?」
『うん平気…座ったら少し楽になった』
「ならよかった!さすがに彼氏でも、男の新一には言えないよねこんな事…」
『うん…』

───ピトッ…

『ひゃあっ!』
「ほら、これ飲めよ」
『あ…ありがとう…』

新一がコーラを私に渡した。

「オメーさぁ、体調悪いんなら言えよな?」
『あ…ごめんね?』
「男には言えない事もあるんだよね?」
『ちょっ、蘭ってば…』
「はぁ?何だよそれ?」
『べ、別に何でもないよっ!』
「ふーん…?」

こういう事って彼氏にも言うべきなのかな?
他の人達はどうなのかよくわからないけど…
やっぱり言いづらいんだよね…

♪♪〜♪〜

『げっ!!』

最近かかってこないと思ったら…!
久しぶりのダースベイダー!!

「…久しぶりに聞くな、その着信音…」
『はぁ〜…ごめんね、ちょっとあっちで話し…て……』

立ち上がった瞬間、視界が歪んだ。
目眩って人生の中で数回しか経験してないけど、こんな酷いものだったっけ?
そう感じた瞬間、テレビの電源を切った時のように私の視界はぷっつりと真っ暗になった。
その後は全く覚えてない。
気付いたら白い天井が見えて、あ、私はベッドに寝てるんだなって事はわかった。

「あ、気が付いたか?」
『……あれ?新ちゃんだ…』
「あぁ、薬の効果が切れちまってな…」
『…そっか…』

ここ、救護室…かな?

『あ、そういえばラディッシュ何だって?』
「…いつもと変わんねぇ内容だよ」
『やっぱりね…』

ったく…たまたま新一が一緒にいたから良かったものの…
自分の運の良さに感謝しなさいよねラディッシュ!

『あれ?そういえば蘭は…?』
「え?あぁ、蘭なら先に帰ったよ…オメーが倒れた後しばらく居たんだけどさ、急に空手部のミーティングが入ったとかで」
『そっかぁ…あ、だから眼鏡してないんだね!』
「あぁ」

お腹の痛みもだいぶ治まったし、もう大丈夫そうね…

「えっ!?オメー起き上がって大丈夫なのか?」
『うん、もう平気よ』
「…なら、いーけど…」
『あれ…?なんで顔赤いの?』
「えっ!?いや…その、あれだろ?」
『…?』
「……せっ、生理…だろ?」
『えぇっ!?何で知ってるの!?』
「ら、蘭から聞いた…」
『うぅ…は、恥ずかしい…』

新一じゃないけど穴があったら入りたい気分…

「…生理痛酷いらしいな?」
『…うん…薬飲んでもなかなかね…もう女でいるのが嫌になる位よ…』
「でも俺の為に我慢してくれてんだろ…?」
『えっ!?もしかして蘭に聞いたの!?』
「あぁ…将来俺との子供を産みたいから、こんな痛みなんて我慢できるってな…」
『もう!恥ずかしいから口に出して言わないでっ!』
「へへへ!オメーほんっと可愛いな!」
『〜〜っ!』

小1の姿でからかわれると普段よりムカつくっ!

「…もう1つ聞いたんだけど」
『え…?』
「優月が課題のせいで寝不足だって…」
『あっ…』
「オメーなぁ!何で俺に渡さねぇんだよ?学校行ってなくたって簡単に解けるぜ?」
『…だって、好きだから…』
「え…?」
『新一が好きだから、色々してあげたいんだもん…』
「…オメーさ」
『え?』
「いい嫁になるぜきっと!」
『えへっ!ありがと!』
「帰ったら俺に課題渡せよ?」
『はぁい』
「…あとさ、約束してくれるか?」
『え?』
「今後何かあったら、1人で溜め込まないでちゃんと俺には言うって…」
『うん、わかった…色々心配かけてごめんね?』
「んな事気にすんな…」

新一は、そう言いながら私の頭を撫でてくれた。


外に出るともう真っ暗で、だいぶ寝てたんだなぁって思うと新一に申し訳なく思っちゃったり…

『わぁ真っ暗…』
「ははは…あれだけ寝てたらな…」
『えへへ…』

でも1日無駄にしちゃった感が拭えないなぁ…
まぁ最近寝てなかったし、仕方ないか…

「…なぁ、ちょっとついてきてくんねーか?」
『え?どこに?』
「行けばわかっから!」
『う、うん?』

新一が小さい手で私の手を引っ張って歩き出す。
私の頭の中で、昔の記憶が蘇ってくる…
懐かしいなぁ…
あの時を思い出す…

「…着いたぜ」
『……』

新一は、とあるエリアの人がいないスペースまで私を連れてきた。
ライトの光りも届かない場所だから結構暗くて、ちょっと怖い…

『ね、ねぇ…』
「…」
『暗くて何も見えないよ…?』
「10…9…8…7…6…」

『え?』

新一が突然、カウントダウンを始めた。

「5…4…3…2…1」

新一が数え終わった直後、突然男性の声でアナウンスが響いた。

−Ladies and gentlemen, boys and girls…−

『えっ!?何、何!?』
「まぁ見てろって…」

私がうろたえていると、すぐ目の前に突然、綺麗な花火が上がった。

『わぁ…!すごい…!!』

色とりどりの無数の花火が、目の前に現れては消え…また現れては消え…
私の大好きな音楽に乗って、華麗に夜空を彩っていく…

『……すごく…綺麗…』
「…ここ、花火が間近で見れる穴場なんだ…オメー全然遊べなかっただろ?だから最後くらい喜んで欲しくてさ…」
『……』

私はしばらく空を仰ぎ見て言葉を失っていた。

『っ……』

花火に感動し過ぎてるから…?
私の事を思ってくれた、新一の気持ちが嬉しかったから…?
どっちが原因かは、わからない。
わからないけど、気付いたら私の頬には一筋の涙が伝ってた。
同時に、花火の光に照らされた彼の顔を見て、幼い日の記憶が蘇る。

『新一』
「…ん?」

私はしゃがんで、彼の青い瞳を見つめながら言う。

『…幸せすぎて、死にそう…』

すると彼は、優しく微笑みながら私にこう言った。

「今からそんな状態じゃ、俺と結婚なんてしたらすぐに死んじまうぜ…?」

私たちは笑いながら、お互いにおでこをくっ付け合う。
彼の姿だけは、あの時のまま何も変わらないけれど、昔と比べて違うところがある……
それは、私が彼よりも身長が大きい事…
あの時の様な、頬にするだけのキスではない事…
そして空には、朝陽ではなく色とりどりの無数の花が、私たちを優しく照らしているという事…

『ねぇ新一』
「んー?」
『なんか私達、端から見たらかなりアブナイよね?』
「…まぁ誰もいねぇし、別にいーんじゃねーの?」
『フフッ、それもそうね…』


bkm?

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