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Zauber Karte

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恋人はパートナー


2日後…。
検査結果は異常無く、無事に退院の日を迎えた。
今は高木さんという刑事さんの運転する車に乗って、自宅へと帰っている途中。


「コナン、優月のマンションに寄ったらうちに連れて帰るからな…」
「あ、うん…」
「えっ…どうしてですか?」
「あ、いや…。お前は犯人を見てるかもしれないから、狙われたら危ないんだ…」
「そう…ですか…」


覚えてないけれど、どうやら私は1人暮らしみたい。
…何で、1人で住んでるんだろう?
家族は居ないのかな…。


「ほら、ここがお前の家だ」
「うわぁ…。随分豪華なマンションですね…」
「このマンション、新一の両親が用意してくれたんだって!」
「へぇ…」


私、新一さんのご両親とも仲が良かったんだ…。


「さ、雨に濡れるから傘に入って?」


蘭さんのお母さんが傘を差し出し、私は車の外に出ようと足を動かした。
その瞬間、


「やめてっ!!」
「優月ちゃん、どうしたの?」


傘。
それに対して、何故か嫌悪感というか、拒絶心というか…。
自分でも分からないけど、見てはいけない物体として、勝手に判断してしまった。


「…ああ、水溜まりが嫌なんだろう。佐藤刑事が撃たれた時も水が溜まっていたからな…。おい、もう少し前に出してくれ」
「分かりました」


佐藤、刑事…?
誰よその人…!
また私の分からない人物。
分からない、分からない、分からない!!


「うっ…!」
「優月姉ちゃん?」


また頭が…!


−佐藤…撃っ……−


…え?
何…?


−佐藤刑事……犯人…−


犯、人?
犯人って…何なの?


−か……−


聞こえないよ…。


−新一に……なきゃ−


えっ…?


−新一に、伝えなきゃ…!−


「優月姉ちゃん!!」


コナンくんの声で、はっと我に返った。


「大丈夫!?」
「はぁ、はぁ…っ、私…犯人、知ってる…」
「えっ!?誰!?誰が犯人なの!?」
「わ、分かんない…。よく、聞き取れなかった…」
「…そっか…」
「でも、何だか…焦ってるみたいだった…」
「えっ…」
「記憶の中の私が、凄く必死だった…。新一に伝えなきゃ…って」
「……」


みんなは、新一さんと私は恋人なんだって言ってたけど…。
でも、なんか…違うような、気がする…。


「ここが優月の部屋よ」
「ここが…?きちんと整理整頓されてますね…」
「優月ちゃんは昔からきちんとするタイプなのよ。じゃあ、荷物の準備してくるわね」
「あ、すみません…」


自分の部屋と言われても、特に思い出せそうな物は無い気がする…。
…私って、几帳面なのかな。
部屋には一切、無駄な物は置かれていない。
…あ、でも引き出しの中はぐちゃぐちゃだ。
自分がした事なんだろうけど、もうちょっと…ね。
…あ、この写真…。
机の上に置いてある写真立てを手に取った。
この人が、新一さん…かな?


「痛っ……」


また痛いっ…!


−…か………えん−


っ、まただ!


「ああ、そいつが工藤新一だ。高校生探偵で、お前をたぶらかしてるとんでもねー奴だ!」
「お父さん!」
「静かにしてっ!」
「え…」


記憶の中の私が、何か言ってる…!


−傘…穴…硝煙…−


えっ、何…?


−新一に……え…!−


なに…?
聞こえないよ…!


−新一に…早く伝えなきゃ!−


「はあっ…はぁ…」


…新一さんに?


「優月!?」
「優月姉ちゃん!」
「また…言ってた…」
「な、何を言ってたの!?」


早く…って…!


「あたし…伝えなきゃ!新一さんの番号、知ってますか!?」
「え?ああ、お前のケータイに入ってるんじゃないか?」
「僕、トイレ!」
「んあ?何だアイツ?」


早く…!
伝えなきゃ!


プルルルルル


「もしもし優月!?」
「あ…えと…。あ、あなたが、新一さん…ですか?」
「ああ。優月が今、どういう状態かは阿笠博士から聞いてる。だから思い出した事があるんなら、言ってくれねぇか?」
「は、はい!あの…記憶の中の私が言ってたんです、けど…」
「…何を言ってたんだ?」
「えっと、傘…穴…硝煙…って…」
「何っ!?本当か!?」
「はい、確かに…言ってました」


私が断言すると、新一さんは黙り込んでしまった。
きっと、色々推理しながら考えてるのかな…。


「あ、あの…」
「ん?どうした?」
「私と、新一さんって…。恋人だけの関係じゃ…ないと思うんです…」
「え…」
「もっと、違った意味で…。何か、特別な関係なんじゃないか…って…」
「…パートナー」
「え…?」
「俺とオメーは、恋人同士でもあるが、パートナーだ」
「パートナー…ですか?」
「ああ」


ふと目をやると、蘭さんが微笑みながら私の事を見ていた。
優しくて、暖かい眼差しで…。


「…新一さんの声、凄く安らぐ声ですね」
「えっ…?」
「…何となくですが、記憶を封印する前の私って、すごく…新一さんの事が、大好きだったと思います…」
「優月…」


…早く、記憶が戻ればいいのに…。


「…オメーなら、すぐに元通りに戻れるさ」
「…その言葉、信じていいですか?」
「ああ、俺が言うんだから間違いねぇよ。ぜってー大丈夫だ。心配するな」
「ふふ、分かりました。…それじゃあ、また何か思い出したら電話します…」
「あ、俺じゃなくて、」
「えっ?」
「コナンっていう坊主に伝えてくれねぇか?事件の捜査で、電話に出られねぇ時もあるから…」
「あ…はい、分かりました。それじゃあ…」


ピッ


「おい優月、傘と穴と硝煙がどうかしたのか?」
「あ、いえ…何でもないです…」


傘と、穴、硝煙…。
私も、何だか気になる…。


「準備出来たわ。そろそろ探偵事務所に行きましょう」
「ああ、そうだな…」
「あ…コナンくん、トイレ終わった?」
「あ、うん…」
「じゃあ行きましょう…」
「はい…」


新一さんの声、とても懐かしくて…。
凄く、落ち着く声だった…。


bkm?

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