うーん…。
さっき白鳥警部が紹介してくれた、あの風戸っていう心療科の先生、なんか嫌な感じ…。
………あ、まさか!
確か殺された奈良沢刑事は、死に際に左胸を押さえてたって言ってたよね…。
これはただの憶測だけど、もしかして刑事さんは警察手帳じゃなくて、心臓…。
つまり心療科の意味を指してたとしたら…!?
し、新一に教えた方が…。
っ、でも…。
さっき、あんな事言われたし…。
なんか、気まずいな…。
また冷たくされたら嫌だし…。
それに新一だって、私なんかと話したくないよね、きっと…。
「じゃあ、プロポーズの言葉はなかったんですか?」
「ええ、彼そういうの苦手だから」
「男はそれ位の方がいいわよ。歯の浮くようなセリフ言う奴にロクな奴はいないから」
「……」
さっきはあんな事言われたけど、決して新一はロクでもない奴なんかじゃ…。
「そういえば新一君も歯の浮くようなセリフ言う男よねぇ…?優月?」
「……」
「…優月?」
「えっ!?あ、ごめん…聞いてなかった…」
「ちょっと、どうしたのよ?何かあった?」
「顔色悪いよ…?新一と喧嘩でもしたの…?」
「あ…まぁ、そんなトコ…」
もう新一は、私と別れたつもりでいるのかな…。
「…ふーん。まぁ、夫婦喧嘩は犬も食わないって言うし、どうせすぐいつもみたいに仲直りするんでしょ?」
「ちょっと園子…」
「…そうだね。今は、そう祈るしかないかも…」
「優月…」
私が謝ったら、新一はどう言うのかな。
笑って、許してくれるのかな。
そんな風に考えてたって意味なんて無い。
それは分かってる。
分かってる、けど…。
「ねぇ優月?」
「…うん?」
「ツラかったら、私と園子がいつでも相談に乗るからね…?」
「蘭…」
「そうよ!私達がいるでしょ?だから元気出しなさいって!」
「園子…」
2人共…。
…ありがとう。
「…ふふっ、そうよね!せっかくのパーティだし、楽しまないとねっ!」
「そうこなくっちゃ!」
「良かった!元気になって…」
「ありがとね2人共!」
こういう時は特に思う。
友達って、ホントに大切だなと。
何か私、いつも励ましてもらってばっかりな気がする…。
「あ、ねぇ!前から聞こうと思ってたんだけど、お父さんは何て言ってお母さんにプロポーズしたの?」
「だから歯の浮くようなくだらないセリフよ」
「先生!教えて下さい!」
「でも何か、忘れちゃったから…」
あー、何か大体予想がつくかも…。
「もう!焦らさないでよお母さん!」
「んーっと、"お前の事が好きなんだよ、この地球上の誰よりも…"だったかなぁ?」
「わぁー!」
「やっぱり…」
前から新一と似てるトコあるかもって思ってたけど、それが確信に変わった瞬間かも…。
「ねぇ優月!」
「えっ?」
「新一くんにもこういう事言われたりしてるんでしょ?」
「……」
「…優月?」
「もっと、重いよ…」
「え…?重い?」
「好きなんだよ、じゃなくて…愛してるだもん…」
「あ…」
「…でも、もうきっと今は、そんな風に私の事…想ってくれてないと思う…」
「優月…」
パーティ終わったら、どうしようかな…。
「あれ?何でガキンチョまで暗い顔してんのよ?」
「えっ…」
「あ、いや…別に…」
ああ、ダメだ。
新一の顔見たら、また涙が出てきそうになる。
…こんなおめでたい場所で、泣いちゃダメだよ。
「…ちょっとごめんっ!」
「えっ、優月!?」
急いでトイレへ駆け込み、個室に閉じ籠る。
そして暫くの間、私は声を殺しながら泣いた。
やっと涙が止まったと思ったら、今度は色々と考え込み、悪循環に陥る。
…私ったら、何で一方的に新一を責めちゃったんだろう。
新一、何か言いたそうにしてたのに話も聞かないで…。
私だって何か悪いところがあったんだよね、きっと…。
確かに新一の言葉には傷ついたのは事実。
だけど…新一だって感情的になってたから、思わずあんな言葉を言っちゃったのかもしれない。
…トイレ出たら、謝ろうかな。
許してもらえるかわからないけど、今のままじゃ絶対ダメだ。
別れるにしても、ちゃんと話し合わないと…!
いや、私は別れたくないけどさ!?
でも、あれが新一の本心なら、黙って受け入れるしかないわけで…。
よし!
勇気出して話しかけよう!
そう自分を奮い立たせ、個室から出た。
「あ、佐藤刑事!」
「あら、優月ちゃん!」
佐藤刑事って、色々な面で女の憧れだよねー…。
仕事もデキるし彼氏(多分)もいるし!
…佐藤刑事が撃たれたりしたらどうしよう。
何だか、心配だな…。
「そういえば例の事件、佐藤刑事も気を付けて下さいね?」
「大丈夫よ!私、タフだから!」
いや、タフとかそーゆー問題じゃないと思うんだけど…。
「でも…用心して下さいね?」
「ありがとう、優月ちゃん…」
さて、新一がいる所に戻ろう。
ごめんなさい、私が悪かったのって…。
早く伝えなきゃ!
フッ…
「わっ!」
ビ、ビックリした…。
いきなり暗くなるんだもん!
「停電かな…」
「どうしたのかしら…。様子見てくるから動かないでね?」
「あ、じゃあ私も…」
「大丈夫よ。すぐに付くとは思うけど、待っててね」
「はーい……あれ?」
この光…。
洗面台の下にある戸棚を開けると、運良く懐中電灯がつきっぱなしのまま置いてあった。
よ、よかったぁ…!
「佐藤刑事!懐中電灯がありました!」
「え?」
私が懐中電灯を佐藤刑事に向けた、その直後。
「だめー!!優月ちゃん!!」
「へ?」
パンッ パンッ
「ああっ!」
「さ、佐藤刑事!?」
パンッ パンッ
「きゃっ…!!」
懐中電灯が自分の手元から離れた瞬間、一瞬だけど、私は見てしまった。
傘の穴から銃口を覗かせ、不敵な笑みを浮かべてこちらを見る、風戸の顔を。
は、早く新一に伝えなきゃ…!
「あ…」
で、でも今はとりあえず佐藤刑事を…!
「さ、佐藤刑事!?佐藤刑事!!ねぇ、しっかりし……」
佐藤刑事の体に触れた瞬間、生暖かい感触が手のひらに伝わる。
「あ…あ…」
佐藤刑事の体からは、おびただしい量の血が流れ出していた。
…いっぱい、血が、出てる。
手に、ヌルッて…さっきまで、佐藤刑事の、体内に、流れてたものが…!
「私の…せい…」
わ…わた、し…が…。
私が、懐中電灯、なんて…。
「い…いやあぁーーっ!!」
激しく押し寄せる、味わった事の無い罪の意識。
それに耐えきれず私の脳は、そこで意識をストップさせた。