「やっと着いた…」
先週末、新一と蘭に見送られながらアメリカに帰郷した。
叔母さんのお墓参りを無事に果たし、家でのんびりしようと思った矢先…。
−優月!事件だ事件!!−
あのお久しぶりなヘタレ警部からの呼び出しの日々。
NYに帰ってるなんて連絡してないのに…!
何で知ってるか聞いたら…。
−部下から聞いたんだよ。優月が歩いてるのを見たってな−
その部下って誰!?
余計な事してんじゃないわよっ!
…まぁ別にいいけどさ?
私がいない間、家の掃除とか頼んでたし!
でも毎日毎日ダースベイダーの嵐だったこっちの身にもなってよね!
私ばっかりこんな扱いを受けてたら割に合わない。
そう思って例の約束は?とラディッシュに持ちかけてみたところ、ちゃんと覚えててくれていた。
頭坊主なくせに記憶力はいいのよね、アイツ。
そんなこんなで今、やっと日本に帰り着いた。
そういえば、新一に電話しても出ないんだよね…。
いつもなら捜査中でも2コール以内には必ず出るのに。
きっと、推理小説でも読み漁って寝てるんだろうな。
♪〜
「はいもしもし?」
「あ、優月ちゃん?」
「有希ちゃん!どうしたの?」
久しぶりにハリケーン有希子様と会話した気がする。
「今ね、実は家に帰ってきてるんだけど…」
「えっ本当!?」
「ええ。ちょっと話したい事があって…」
「話したい事?何?」
「あ…ちょっと電話では言いにくいからうちに来て欲しいんだけど…」
えっ、電話では話せないって…。
何か大事な話…なのかな?
「別にいいけど…。でも今成田だから、あと2時間くらいかかっちゃうかも…」
「大丈夫よ!じゃあ待ってるからね!」
何だろう、話って…。
ま、行けばわかるよね!
どうせ有希ちゃんの事だから『もう優作なんか知らない!離婚よ離婚〜!!』なんて愚痴を延々と聞かされるんだろうな…。
「ただいまんとひひ〜」
「お帰りー!優月ちゃーん!」
「ふぐあっ!」
く、苦しい…!
「待ってたわよ〜!さ、荷物置いてこっちに来て!」
「う、うん…」
久しぶりの工藤邸には、予想外な事に優作さんまで来ていた。
いや、自分の家なんだから居て当然なんだけど…。
これで離婚の話では無くなった事は確かで…。
「やあ優月くん、久しぶりだね」
「ご無沙汰してます」
「ふむ。まぁ座りなさい。今ミルクティーを淹れてあげよう」
リビングに連れられ、優作さんが入れてくれたミルクティーを一口飲んだ。
はあ…やっぱりこの味、癒される!
「それで?話ってなぁに?」
「実はね優月ちゃん…」
「うん?」
「この家から出ていって欲しいの!」
「……」
ああ…そうか。
私はどうやら…。
彼氏の母親に、嫌われたようです…。
「ひ、酷い有希ちゃ…」
「おい有希子。今のは少し直球過ぎるんじゃないか?」
「あ、そ、そうだったわね…ごめんなさい優月ちゃん!変な意味で言った訳じゃないのよ?ちょっと事情があって…」
「……へ?」
じ、事情…?
「実はだね優月君、」
「は、はい?」
「うちの愚息が厄介な事件に首を突っ込んでしまってな…」
「……新一が?」
「ああ。詳しく話を聞くと、どうやらその事件の裏には凶悪な組織がついているらしいんだよ」
凶悪…組織、って…。
「はあ!?何よそれー!!」
あのバカ推理オタク!
何やってるのよ私には散々ヘマするなとか変な事には首を突っ込むなとか口煩く言ってた癖に!!
「でね、その組織が新ちゃんを狙ってこの家に来るかもしれないの」
「ええっ!?」
ああああのバカ!
私がいない間に何をやってんの!!
「それでね?優月ちゃんも事件が落ち着くまで、どこか別の場所で暮らして欲しくて…」
「無関係なキミを巻き込む訳にはいかないからな」
「…で、でも何処に」
「あ、大丈夫!」
「…え?」
「もう優月ちゃんの住むおうち、決めてきたから!」
「……は、い?」
「こういう事は早急に対処しなければならないだろ?」
「……」
何か、頭が混乱してて…。
えっと…何を話せばいいのやらで…。
「それじゃ!話す事は話したし、あとは引っ越しね!」
「は?」
「今から新しいおうちにご案内しま〜す!」
「…えっ!?いや、ちょっと待っ」
「なに、心配する事はない。防犯もしっかりしていてとてもキレイなマンションだよ」
「ああ、そうなんだ。じゃあいい…」
って!
良くないよっ!
混乱してる私をよそに、このハリケーン夫妻はルンルン気分で車を飛ばす。
こうして私は2人によって強制的に新しいおうちへ連れて行かれた。
「どうかしら?気に入った?」
「急な来客が来てもいいように、3LDKの部屋を選んだんだが…やはり狭すぎたかな?」
「…いや、もう十分すぎるほどです」
連れて来られたのは、20階建ての高級感漂うマンションの最上階。
何故最上階にしたのか聞くと、空き巣に狙われないように…らしい。
いや、だったら中間の部屋でもいいじゃん…。
「あれ?もしかして家具家電付きのマンションなの?」
「いいえ?マンション契約した時に一緒に買ったのよ!」
「…ソ、ソウデスカ」
さすが工藤夫妻…。
金に厭目はつけないところは昔も今も変わってないんだね…。
…あっ!
「ね、ねぇ!そういえば新一は!?新一はどこにいるの!?」
私とした事が肝心な事聞くの忘れてた…!!
「あ、ええと、新ちゃんなら…」
「1人でどこかに逃げてるんじゃないか?」
「……は?」
「まぁアイツの事だ。野垂れ死にはしないだろう」
「ええ!何てったって私達の子だしね!」
「……」
な、何なの?この人達…。
自分の息子が危ない目に遭ってるっていうのに!
それでいいのあなた達夫婦は!?
「あ、優月ちゃんは心配しなくていいのよ?」
「で、でも…」
「大丈夫だ。ちゃんと生きてるよ」
「…なら、いいけど…」
うん、生きてるなら…。
まぁいいかって、思う…。
優作さんも有希ちゃんも、嘘ついてるようには見えないし…。
……でも。
「ねぇ有希ちゃん?」
「なぁに?」
「…何か隠してない?」
「えっ!?」
怪しい…。
「…隠してるのね?」
「や、やーねぇ!何も隠してないわよー!」
「…本当に?」
「もちろんよ!ねぇ?優作?」
「ああ、隠す事など何もないよ」
「…そう?ならいいけど…」
優作さんがそう言うなら、まぁいいか…。
「じゃ、私達はLAに戻るわ」
「…え!?」
「また来るわね!戸締まりには気をつけるのよ?」
「またな。優月くん」
「あ、はいさようならー!…じゃなくて!」
「じゃあね〜!」
バタン
「……」
ピッカピカの洗練されたデザイナーマンションに私を残し、ハリケーン夫妻は去って行った。