はらり、君の頬をつたう
「…大丈夫ッスか?」
「…うん、ごめ――」
そこで俺たちは、抱きあってから初めて目を合わせた。
顔が、近い。
一気に神山さんの顔が真っ赤になる。彼女の瞳に映った俺も、今までにないくらい真っ赤だった。
急に恥ずかしいのが込み上げて、2人で大きな声を出しながら離れる。
「わああああ!!ご、ごめん!!」
「だ、大丈夫…」
ちらりとまた見えた、神山さんの腕の痣。痛々しいその色を見て、俺は眉をひそめた。あの女達にやられたのだろうか。
神山さんはヘラヘラと笑って、お礼を言う。
「ありがとう、黄瀬くん。助かったよー」
「…俺のせいだって、」
わかってるのに、何で。
何で元凶の俺なんかにお礼なんか。
泣きそうになったから俯かせて表情を隠した。
神山さんは息を飲んで、言葉を続けた。
「黄瀬くんのせいじゃないもの。モテるんだから仕方ないよー私も抜け駆けっぽいことしちゃったし」
「神山さんは、悪くない」
「えーそうかなぁ…。あの子たちの言う通り、私みたいなちんちくりんじゃ黄瀬くんの隣は似合わないんだよ〜」
「そんなことない!!!!」
大きな声で否定した。神山さんは驚いた顔をした。
俺は知っている。神山さんはすごく優しくてふわふわしていて、ちょっと抜けてる部分もあるけどそんなところも可愛いんだって。頑張り屋さんで、部活熱心で、友達思いなんだって。
あいつらなんかにわかるはずない。わからなくていい。
「俺の隣は、俺が決めることッスよ」
神山さんがいいんだ。
神山さんじゃなきゃ嫌なんだ。
あんなに女の子との会話が楽しかったことなんてないんだ。神山さんだから楽しいと思うんだ。
神山さんだから、俺、幸せだなって思うんスよ。
「俺は……神山さんに、隣にいてほしい」
「…え?」
「神山さんと、一緒にいたいんスわ」
伝われ。俺の気持ち。後悔したくないんだ。
もし付き合えたら、全力で守る。全力で君のこと、愛すから。
「…やだなぁ、黄瀬くん。勘違いしちゃうよ」
「勘違いしていいッスよ。…てか、勘違いじゃないし。俺、本気だから」
神山さんはヘラヘラと笑いながら、否定した。
冗談だって、受け取らないで。彼女の両手を自分の両手で包みこんで、必死に伝える。彼女の表情に、戸惑いが見え隠れする。
「…私、可愛くないよ?オシャレも、お化粧も下手っぴだし」
「俺はそういうので選んだわけじゃない」
「黄瀬くんが落ち込んだ時、気の利いた言葉言えないよ?支えて、あげられないよ?」
「傍にいてくれるだけでいいんス。隣にいてくれれば、幸せだから」
ねぇ、俺は期待してもいいのだろうか。
だって、キミの顔真っ赤。
「ほ、本当に?本当に言ってるの?」
「本気だよ。そうじゃなきゃ一緒に帰ったりしない」
「そ、そっか…」
まだ疑っている神山さん。
すごく悲しいけど、仕方ない。一応、俺はモデルもやってるわけだし…前の俺を知ったのならいい印象がないだろうし。
神山さんは俯いて、手を口元に当てた。
心配になって覗きこめば、ボロボロと大粒の涙を流していてギョッとした。
「え、ちょ、何で泣いてるんスか!?」
そんなに嫌だった!?
また、イジメられると思って怖いのかな。
わたわたと俺が慌ててバタバタしていると、#神山さんはゆっくりと首を横に振る。
「ごめんね、黄瀬くん」
―――え?
ガンッと、鈍器で強く殴られたような衝撃。
頭が、ぐらぐらした。
俺、もしかして――…
「嬉しすぎて、涙が、止まらな…っ」
「…マジか」
よ、かった…。フられたのかと思った。本気で。大量の冷や汗が出た。
1人で安堵のため息を着く。
目の前で肩を少し震わせ、涙を流している神山さんを見て、すっげぇ愛しくなった。
頭を優しく撫でる。あぁ、こんなに小さいんだな。片手で掴めちゃうな。ボールより小さいんじゃね?
「痛い思いさせて、ごめんね」
「…ううん」
「二度と、こんなことさせないから。守って見せる。だから――…」
ねぇ、神山さん。
俺たちの出会いってさ、面白いぐらい普通だったッスね。
すっげぇ好きになる人は、もっと運命的な、ロマンチックな出会いをするもんだとか夢見てたけど。
こんなに普通で、告白もみんなとそう変わらないようなシチュエーションなのに。それなのに。
「俺と、付き合って下さい」
こんなに、緊張するものなんだな。
頭からゆっくりと手を離した。
顔を上げた神山さんからは、いい返事とともにいつもの可愛らしい笑顔が見えた。
あぁ、やっと、笑顔見れた。
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