ぱたり、物語はおしまい
それから、神山さんは部活の終わった後、教室に来ることはなかった。
理由はわからないけど、何か用事があるんだと思う。家の用事とか?一言ぐらい言ってくれたってよかったのに。
隣の席で、紫原っちと話しながら笑ってる神山さんを横目に見る。
「えみちん、今度甘いもの食べに行こうよー」
「え、行きたい!私おいしいパフェ知ってるよ!」
「えー誘って。絶対行くし」
…2人で出かけたりするのかな。
どれくらい仲がいいかなんて知らないけど、紫原っちには正直妬く部分も多い。神山さんとすっげぇ仲いいから。毎日、普通に話してるし。
思えば、全然神山さんのこと知らないんスよね。一緒に帰ってたってだけで。
それがなければ、俺らはただのクラスメート。はっきりいって、友達以下。隣の席だからって話もしない。
「えみちんさーいっつもアメ持ってるよね〜」
「だって敦くんお菓子なくなっちゃうじゃん」
アメを持ってるのは、紫原っちのためなのかな。欲しいって言ったら、いつでもあげられるようにかな。それって、紫原っちのこと好きってことになるのだろうか。
教室で、一緒に帰らなくなった理由を聞いたら、きっと神山さんは困るだろう。誰も知らない事実。俺と帰ってたなんて知られたくないと思うし。
…あーぁ、ついこの間までは2人で談笑しながら帰ってたのになぁ。今じゃ全くと言っていいほど話さないし、目も合わない。あの時間が嘘のように感じる。
こんなに近いのに、何で遠く感じるんだろう。
「だってお菓子おいしいじゃん」
「野菜も食べなきゃダメだよ」
「えーだっておいしくないし」
せめて、何で一緒に帰ってくれなくなったのか理由が聞きたい。こんな急に、悲しすぎるッスよ。
だって俺はもう、神山さんのこと好きになっちゃったんスもん。
大好きだから、本当に悲しいし辛い。今だって紫原っちとばっか喋んないで俺とも話そうよ、って言いたいくらいなのに。
「俺のため?」
「そうなっちゃうね〜敦くんは母性本能をくすぐるんだよ、子供みたいでさ」
「えみちんの方が小さいくせに」
「そ、それは言っちゃダメでしょ。そういうことじゃなくて――」
ずるい、ずるいずるい。俺も、神山さんと話したい。
前、俺が女関係だらしなかったって聞いたのかな。だから最低だって思って幻滅して、縁を切ろうとしてるのか。考えれば考えるほどキリがないくらい思いつく。悪い予想ばかり。
来ないってわかってるのに、それでも毎日教室に確認しに行く俺は、本物のバカだ。
* * *
「何ですか、その負のオーラ」
「だって、黒子っち…」
「この間までのハッピーオーラはどこに行ったんですか」
俺だって、どこに行ってしまったのか知りたい。
ついこの間までの俺とは一転したこの態度に、黒子っちがさすがに心配してくれたらしい。話しかけてきてくれた。
それもそうだ。この間まで俺は毎日幸せだったんだから。あんなにテンションMAXだったんだ。今考えればあの時の俺が恥ずかしい。
自惚れてたんだ、上手くいくんじゃないかって。神山さんが優しく笑ってくれるし、一緒に帰ってくれていたから。
でも、俺が一緒に帰ろうと誘ったわけで…神山さんはもともと、みんなに優しい子だから。それなのに期待した俺が馬鹿だったんだ。
「フられましたか」
「わかんないッス…直接言われたわけじゃないけど、そうかも…」
避けられてる感じも、少しはする。体育座りで小さく縮こまる。
神山さんと話したい。また、前みたいに笑ってくんないかなぁ。楽しく話せないかなぁ。
今さら諦めるなんて、無理ッスよ。
「…まぁ、黄瀬くんは選び放題なわけですし。その子じゃなくてもいいんじゃないですか?」
「嫌ッス。あの子じゃなきゃ嫌なんス」
「それほど本気なら勇気を出すべきです。変なところで持ち前のヘタレっぷりを発揮しないでください」
「ひどっ!!俺今傷ついてるんスからー!!」
「黄瀬くんに優しい言葉かけても無意味ですから。厳しくしないと行動しないじゃないですか」
でも…やっぱり、怖いッスよ。
このまま俺と神山さんは話さないで前みたいに他人になってしまうのだろうか。
ああ、なんて情けない。
黒子っちの言う通り、俺はヘタレで小心者だ。笑える。
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