ぽとり、涙 | ナノ


  ことり、さようならの置きみやげ




何だか最近、調子がいい。
イメージ出来ても出来なかったプレーが出来るようになったり。シュート率が上がったり。

少し怖いくらいに、最近いいことばかりだ。




「…何だか黄瀬くん、最近イキイキしてますね」




シューティングの時、黒子っちが俺に話しかけて来た。毎度のことながら、練習がハードすぎて疲れたらしく窓を開けて風に当たり休んでいたようだった。
黒子っちが話しかけてくれたのが珍しいから嬉しくて、俺は一旦シュートをやめ、彼の元へ近寄った。




「へへっ!やっぱそうッスか?自分でもちょっとそう思ってたんスよ〜」
「バスケやってなくても、楽しそうですよ。何かあったんですか?」




何かあったか、と言われて真っ先に出てくるのは、神山さんの顔。
神山さんと話すようになって、彼女を好きになって…俺は変わったように思う。どこがと言われたら上手く答えることは出来ないけど…でも、何だか最近妙に楽しい。前より一段と明るくなったと言えばいいのだろうか。




「好きな子、出来たんスよ〜」
「へぇ、そうなんですか。ちなみに、何人いるんです?」
「ちょ、人聞き悪い!」




冗談です、と微笑む黒子っち。酷いッスよ〜…前が前だからそんなイメージ持たれてても仕方ないと思うんスけど…。
前は、コロコロ変わってたからなぁ。複数いる時期もあったりして。恋愛はゲーム感覚だったし。

でも今は…神山さんのおかげで落ちついて。というか、神山さんが好きすぎで他の子とか眼中に入らないっていうか。
モデルで可愛い子見ても何とも思わない。むしろ神山さんの方が何倍も可愛いと思ってしまうほど。




「そういえば最近女の子と歩いてる姿見ないですね」
「うーん…てゆうか、本気の子が出来ただけ」
「付き合ってないんですか?」
「うん」




そっか。黒子っちは俺と神山さんが仲いいこと知らないんだ。
同じクラスで席も隣同士だけど、そんなに彼女と会話をすることはない。てか後ろの女子の方がうるさくて。そう思うと、交えて話すことはあっても個人的に話すことはないに等しい気がする。だから余計に、あの時間が大切に感じるのかもしれない。

黒子っちは付き合ってないということに驚いたようで、珍しく口をポカンと開けたままだった。その表情にクスリと笑いが漏れる。




「…驚きました。珍しいこともあるんですね」
「珍しいって酷いッスね〜。まぁ、その子は俺のこと友達としてしか見てないっぽいんスわ。すぐに付き合ってほしいとは思わないし、のんびり行くッス」
「…変わりましたね、黄瀬くん。その人すごいです」




そうだよ。俺のこと変えちゃうくらい、すごい魅力的。

神山さんの笑顔を頭の中で思い浮かべる。
あぁ、早く会いたい。時計を見て、あと20分シュート打ったら帰ろうと心に決め、ゴールと対面した。




 * * *




「―――…あれ?」


教室は、真っ暗だった。結構急いできたんだけどな…。神山さん、まだ部活終わってないのかな?

教室に入って、電気をつける。教室の中はがらんとしていて、何だか寂しい気持ちになった。いつも神山さんが先にいて、「お疲れさま」って笑顔で声をかけてくれるから。
まぁたまには立場が逆というのもいいかもしれない。いつも俺が癒しをもらってるわけだし、たまには俺も神山さんのこと癒してあげられたらな。出来るかな。
彼女みたいに柔らかい笑顔でお疲れさま、と声をかけてあげられるだろうか。それに少しでも疲れが取れてくれたら、嬉しいんだけど。




「…ん?」




俺の、机の上。近づいたら、そこには1枚のメモ用紙とお決まりの黄色のキャンディ。
間違いなく、神山さんのレモン味のソレで。






『一緒に帰れません。ごめんなさい』

「……ま、そういう日もあるか」






用事か何かだろうか。
毎回毎回、一緒ってわけにも行かないッスよね。このアメは、謝罪の意味も含めてかな。

少し肩を落としながら教室をあとにする。
口に含んだレモン味はいつもと同じはずなのに、とても酸っぱく感じた。







prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -