ぺこり、ごめんなさい
その後も適当に過ごし続けた数日間。
屋上で授業をサボっていたその日、1通のメールが届いた。
「黒子っちからだ!!」
あまり携帯に触らない彼がメールをくれたのが嬉しくて、自然にテンションが上がった。
すぐにメールを開くと、そこには何行かの文章と、画像が1枚。
『お元気ですか、黄瀬くん。僕たちは元気ですが、えみさんは元気がありません。聞いても話してくれないですし、何か心当たりはありませんか?ケンカをしているのであれば早急に謝って仲直りするように』
下にスクロールして行けば、仲よさそうに3人でお弁当を食べている写真。何だよ嫌みかよ。しかも謝るようにって…ケンカの原因は全部俺が悪いってことッスか。決めつけないでほしいッス。…まぁ、あながち間違っちゃいないけど。
写真をボーっと眺めて見る。楽しそうだな。俺もここの輪に入りたかった。
目を細めてお握りで口を隠しているえみ。笑っているのかは、正直わからなかった。
「っあれ…?」
画像をスクロールすると、まだ文章が下の方に残っていた。
『ちなみに、えみさんはキミが思っている以上にキミのことが大好きですよ』
「――そんなの…っ」
俺が一番、わかってる。わかってたはずだった。
いつだって俺のこと優先で、大好きで、だから。優しすぎて、わがままな俺に嫌気さしたんじゃないかって。優しいから嫌だってハッキリ言えないんじゃないのかって。
でも本当はわかってた。
嫌なことは、ちゃんと嫌だって言えることも。
えみは本当に優しくて、俺のことを1番に考えてくれていることも。
レモン味のアメは、俺にしか渡していないってことも。
気付けば俺は、屋上を飛び出して授業中の教室に戻り、荷物をまとめた。
「な、何してるんだ黄瀬」
「早退するッス。急な仕事入っちゃって」
適当に教師に言葉を飛ばして、教室から出た。
急いで電車に乗って、目的地で降りて。
その間、俺は何も考えていなかった。しいて言えば、えみのことだけを考えていた。
なんて謝れば許してくれるだろう。無視されないだろうか。そんなことを考えては消え、結局大したことは思い浮かばなかった。
* * *
そうして辿り着いた先は誠凛高校の前。
何にも考えなしにここまできてしまったが、どうしよう。ちょうど下校時間のようで、変装もしていなかった俺は先日のように目立ちに目立っていた。
この前のように囲まれてからじゃ遅いと、高校に侵入しようと足を踏み出した、その時。
「――…えみっ!!」
「――…りょ、うたくん」
楽しそうに火神、黒子っちと一緒に歩いてきたえみを見つけた。
俺は彼女の姿を見つけた途端、勝手に体が走りだして。
バスケで走るより、もっと早く走って。
短い距離だったそれはすぐに縮まって。
彼女の体をめいいっぱい、抱きしめた。
「ちょ、涼太くん、目立って…っ」
俺の腕の中でえみが慌てている。
俺の胸を押し返す。だけど、そんなんじゃビクともしない。ぎゅうううう、としまい込むように強く抱きしめた。周りで、黄色い悲鳴に似たような女子の声が聞こえる。だけどそんなの、気にならないくらい。
「ごめん。ごめん、えみ」
俺には、君しか見えていなかった。
「ごめん、本当に俺、俺ひどいことばっか言って…っ!」
「……えっと…」
「別れるなんて、言わないで…」
抱きしめた腕を解き、彼女の頬に手を寄せた。
いとも簡単に包み込んでしまうほどの小さな顔は不安げに眉を寄せていて。俺、もしかして付き合ってからずっとこんな顔させていたのだろうか。自分ばっかりが幸せで、自分のことしか考えていなかったことが、腹立たしい。
「私こそ、ごめんね。だけど…」
「俺は、えみじゃなきゃ嫌なんス。忙しいし、全然好きなところにも連れてってあげたりも出来ないけど、でも」
普通のカップルみたいなことはしてあげられない。俺が女といると、目立つから。
だけど。
「隣にいてほしい。これからもずっと、一緒にいよう」
俺の気持ち、知ってて欲しい。俺はずっとずっと、えみと一緒にいたいんスよ。
ヤキモチ妬きだし、嫉妬深くて面倒臭いかもしれないけど。
それでも、一緒にいたい。
「――…涼太くん、私本当は、別れたくなかったの…っ」
子供みたいに、ボロボロと涙を流して肩を震わせるえみが愛おしくてたまらなくて、思わず思いっきり抱きしめた。
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