ぽとり、涙 | ナノ


  ふらり、さようなら




家に帰った。とりあえず仕事が長引いたとメールして、風呂に入った。
風呂から上がれば久々に声が聞きたいって書いてあったから、俺から電話した。




『…もしもし?』
「もしもし。今日ごめん、本当」
『ううん。大丈夫だよ、お疲れさま』




えみの声はすごく柔らかくて優しい。
だけど今は何だか余計に癪に触ってイライラした。電話するんじゃなかったと後悔したけど、今さら切れない。

お互いの話を少しして、世間話をして。だけど、あの女みたいな楽しさはなくて。
俺、本当どうしちゃったんだろう。本当は自分でも、わかってるけど。




「今日、何時ぐらいまで待っててくれた?」
『えーと…9時半、くらいかなぁ』




嘘だ。見間違えるはずはない。
あの髪色と長さはえみのものだった。

何でそんな嘘つけんスか。別に言ってくれればいいじゃん。ずっと待ってたよって。今日もいつもみたいに待ってたよって。いつだって、仕事が遅くなってもずっと駅で待っててくれてんじゃん。今日だけ違うとかおかしいじゃないッスか。よりによって、今日。




「何でそんな嘘つくわけ?」
『…え?』




口に出したら止まらないなんてことは、わかってた。だから言わないでずっと1人で抱え込んできた。俺が我慢すればいい話だったから。

だけど、だけどさ。
もうそろそろ、限界ッスよ。




「俺、えみのこと駅で見たんスけど」
『…あはは、そんなわけないよー』
「嘘つかなくていいよ。いたならいたよって言ってくれればいいじゃないッスか」
『……だって、涼太くん…』




ねぇ、何で泣きそうな声してるわけ?なら何であの時出て来てくれなかったんスか。てか何で俺のせいなわけ?俺が取り込み中だったから帰ったわけ?
俺疲れてるけど、少し待って。でも来なくて。そんで今日も結局会えなくて。このまま俺らずっと会えねぇんじゃねぇの?




「出て来てくれればよかったじゃないッスか。俺の彼女だって言ってくれればよかったじゃん」
『だって涼太くんモデルで有名だから…広まったら困るでしょ?』
「別にいいッスよ、えみなら。てかさ、火神と黒子っちとなんか仲よすぎじゃないッスか?」
『え、そ、そうかな…?』




無自覚かよ。そりゃそうか。俺が許してんだから。
中学のときも紫原っちとあんなに仲よかったしね。パフェとか2人で食べに行ってたし。今でも連絡取り合ってるみたいだし。

あーなんか考えたら考えただけムカつく。
本当に。イライラしてしょうがない。




「ねぇ、何で俺には全然名前呼び出来なかったのにさ、火神には大我くんなわけ?いくら何でも仲よくなりすぎなんじゃねぇの?」
『別に深い理由は、』
「えみはさ優しすぎるし、なんていうかそういうのムカつく」
『…涼太くんだって、』




その時、初めて俺に対して怒る声を聞いた気がする。




『仕事だから、遅いってわかってる。わかってるよ、でもね私だって不安なんだよ。学校離れてるし会えないし、本当に仕事なのかなって考えちゃうときだってあるよ。だけど涼太くんのこと信じて、会える日は駅で待って会えたらすごい嬉しいの』
「……。」
『でもさ、今日のはすごい本当、最悪だった。見なきゃよかった話なんだけどね、何だか全部崩れたよ。本当に私馬鹿だなぁって思った。最初から私と涼太くんは釣り合ってないってわかってたはずなのに。あんなキレイな女人と一緒にいるところ見たら、改めて言われた気がしたよ。一緒にいない方がいいって』




――…何だよ。何だよ、それ。

じゃあ今までえみはそういう気持ちで俺と付き合ってきたわけ?ずっとずっと、えみのこと大好きだったのに。えみは、俺の隣にいない方がいいと思いながら俺の隣にずっといた?
何なんだよ、それ。何なんだよ。




「じゃあ、えみは俺の隣にいたくないってこと?」
『…違くて、』
「じゃあ何がいいたいの?」




ねぇ言ってよ。思ってること全部言って。
イライラしてるけど、すっげームカついてるけど。

でも俺さ、まだ一度もえみからわがまま言われた事ないんだよ。
イジメられてた時も助けてと言われなくて。何でも1人で抱えて俺を頼ってくれなくて。俺ばっか支えられてて。






『――…何でも、ない。ごめん、忘れて』






ほら、また。

ため息が出た。結局俺には何1つわがまま言ってくれない。




「…もう、いいッスわ」
『…涼太くん?』
「結局俺には、何にも話してくれないんスね。わがままも言ってくれないし、頼ってくれたこともない。彼氏じゃないッスよ、こんなん」




火神には頼ってるのだろうか。
黒子っちには、わがまま言ってるのかな。

それを考えたらますますイライラが増して。




「もう切るわ。じゃあね」








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