ぶわり、溢れ出す不安
「じゃあ今日の練習はこのくらいで、」
「え?何か早くないッスか?」
「先生に急な用事が出来たんだと。先生不在での部活動は禁止だからな。個人練習は別だが」
帝光中を無事に卒業し、俺は神奈川の海常高校に進んだ。バスケの強豪校だと聞いてきたけど、やっぱ俺もキセキの世代と呼ばれるだけあって能力はズバ抜けていた。その中でも尊敬する先輩が出来たのは、嬉しい限りだが。
「やったー!えみに会えるー!!」
笠松センパイの言葉に喜びを隠せなかった。だってだって!えみと会えるんスから!今週はテスト週間だって言ってたから、部活ないはず!
前に会ったのは3週間前。約1カ月ぶりのえみ。本当は1週間先だったけど…嬉しい。マジで。
俺の反応に青筋を浮かべている笠松センパイには、舞い上がりすぎて気付かなかった。
「しっかし、意外だよなー女の子選び放題のはずの黄瀬に溺愛する彼女がいたとは」
女の子が大好きな森山センパイがそう述べた。
やっぱそう見えるんスかね。何度も見たいとせがまれてきたが、まだ一度も見せていない。だってセンパイに見せたら、何かヤバい気がするんスもん。
「どこの高校なんだ?」
「誠凛ッスよ」
「え、あの誠凛?」
「そうッス」
誠凛高校と言えば、つい最近練習試合をして負けたところだ。あそこには黒子っちと、新しい光の火神っちがいる。
同じクラスで仲がいいと言うし、正直不安もあるっちゃあるッスけど。だけどまぁ、学校が楽しいみたいで楽しそうに話してくれるから悪い気はしない。仲よくやってるみたいだし。
「あと気になってたんだけど」
「はい?」
「彼女にはあれつけないんだな。何とかっち、ってやつ」
「あー…」
てかそもそも、名前呼びにしたのも最近だ。前までは名字呼びにさん付けだった。ふざけて時々名前呼びすることはあったりもしたが、それはふざけていたからで。名前呼びが恥ずかしいと言っていたに弁償して、俺も何故かなかなか名前呼びに直せていなかった。
付き合っていると言うのにあまりにもよそよそしかったからさすがにこの間、直したのだ。
「だって彼女ッスよ?みんなと同じあだ名とか嫌じゃないッスか。俺の特別だし」
「…すごいな。ぜひ一度会わせ「会わせません」
森山センパイは、特に。
2人で話していると、とうとう笠松センパイの雷が落ちた。5分ほど、圧力のすごい説教をくらった。
「はぁ…早く会いに行って来い」
「っありがとうございます!!」
センパイの許しを得て、俺は部室へ速攻向かった。すぐに制服に着替え、鞄を持って電車に乗る。その間ににメールをして、夕日を眺めながら誠凛へ向かった。
あぁ、早く会いたいなぁ。笑顔で俺の名前を呼んで、駆け寄って来てくれるかな。
* * *
「あっれー…おかしいな」
メールの返信がない。最近は部活もないみたいだし1時間もあれば帰ってくるんだけど。いつもより時間が早かったからかな。
電話をかけたけど、なかなか出ない。仕方ない、どこかで暇潰すしかないか。久しぶりに黒子っちにも連絡してみよう。
だけど黒子っちも出ない。今思えば、そもそも黒子っちはあまり携帯いじらないんだった。
「どーっすかねぇ…」
そういや、この近くにマジバあったっけ。そこで何か食べながらからの連絡待とうかな。そう思ったらすぐ行動。俺はマジバに向かった。
夕方だからか制服姿の学生が多い。女子たちが俺をチラチラと見ていたから、目が合った時にニコリと笑い返しておいた。
あーダメダメ。えみはあんな反応しない。物を買って席を探した。ときに。
「火神くん、そんなに食べたら夕ご飯食べれなくなりますよ」
「はぁ?食えっから。黒子、お前こそそんだけで足りんのかよ」
「君と一緒にしないでほしいです」
あ、黒子っちと火神っちの声!
俺は自然にそっちに足が向かった。席空いてたら同席させてもらおうと思ったから。
「あはは、大我くんは本当にたくさん食べるんだねー」
ピタリと、足が止まる。
俺の視線の先には、黒子っち、火神っち、そして――…。
別に、いいんだ。
3人仲いいのは、いいことだと思うし。
だけど。だけどさ。
何で火神の隣に、座ってんの?
何で俺も見せない笑顔で話してんの?
――…"大我くん"って、なんだよ。
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