ぽとり、涙 | ナノ


  ゆらり、君とならいつまでも




神山さんと付き合って、もうすぐ半年になるころ。




「えー!?黄瀬ちんとえみちん、付き合ったの!?やだやだ、絶対認めない!!!」
「ちょ、何でッスか!?」



部活が終わって、更衣室で着替え中。久々に全員集まったから、神山さんのことを報告した。
最近はみんな練習出ることも少なくなって、揃うことはなかなかない。まず青峰っちが優先していない。
もうすぐ全中なのにいいのかなとか思うけど、俺もモデルの仕事増えて出られないときも多いし…みんなお互いさまって感じなんスかね。それに、周り弱すぎて練習いらねーとかちょっと思っちゃってるし。モチベーション上がらないんスわ。まぁ、それは置いといて。

その報告に一番最初に反応した紫原っちの言葉は、反論の声だった。




「えみちんは黄瀬ちんには勿体ないしー」
「そうなんスよー勿体ないくらいの彼女で!」
「うわ、惚気うざ」




本当に、可愛い。
毎日内緒で帰ってるし、みんなにも広めてないけど。そういう関係もいいな、なんて思ってる俺がいて。

内緒にしてほしいと頼んで来てくれた神山さんがとても可愛いと思って、懇願された時は思わず抱きしめてしまった。
まだ怖いのが抜けないのかと聞いた時。そうではなくてただ俺と付き合っているというのを周りに言われたら恥ずかしいからという理由だった。
なにそれ可愛い。再び抱きしめた。

俺がバスケの試合で神山さんと敵で当たったとしても。敵でもボールが欲しいと言われたら躊躇いなく彼女にパスを回すことだろう。




「黒ちんもそう思うよねぇ〜」
「紫原くんと同感です。神山さんは黄瀬くんには勿体ない素晴らしい人ですから」
「ちょ、応援してくれてたんじゃ…」
「上手くいくなんて思ってませんでした」




黒子っちも、ひど!!
他の人たちには、バスケに支障が出ないのならいいんじゃないのか、と言ってもらえた。よかった、今さらだけど恋愛禁止の掟とかあるんじゃないかと冷や冷やした。




「あ、じゃあ神山さんが待ってるから!お先に失礼するッス!」
「「「勝手にしろ(てください)」」」




みんなの冷たい言葉を背中で受け止めて、教室へ向かった。皆酷いなぁ、相変わらず。愛故だと信じてるッスけど。

早足で、教室へ向かう。いつも通り、電気の明かりが付いているのを発見。一気に頬が緩んだ。




「神山さーん!お待たせ、帰ろう!」
「あ、お疲れさま〜」




きゅん。
可愛い。可愛い可愛い。

ぎゅう、と抱きしめれば慌てた様子で「な、何!?」と声を上げる神山さん。可愛い。俺のものになったんだと思うと、ニヤけが止まらない。
こんなの初めてだ。半年経つのに、いまでも付き合いたてのような感じが抜けない。

抱きついてると歩けないから仕方なく離れた。前よりも距離は、近い。触れた手は、自然に絡められた。




「みんな酷いんスよ〜紫原っちと黒子っちは付き合うなって言うし」
「ふふ、黄瀬くんのことみんな大好きなんだよ」




自分が誉められたことに対してはスルーか。さすがだな、上手く交わす。




「黄瀬くんの方が、私には勿体ないくらいの彼氏だと思うんだけどなぁ」
「えー?そうッスか?」
「そうだよ〜」




絡められた手が、あったかい。
神山さんは俺の方を見上げて、ヘラリと笑う。




「とってもかっこよくて、優しいもん」




――…め、珍しい。
こんなふうに素直に甘い言葉を囁くことなんて、今まで片手で数えられるほどしかなかったのに。




「どうしたんスか」
「え?」
「いや、今日はやけに素直だなぁって思って…」




ほのかなピンク色のマフラーに顔をうずめて考えた様子を見せる。
次の言葉を俺はのんびりと待つ。




「もうすぐ卒業だから、言える時に言わないと後悔するかなって思って…」




すこし悲しそうに笑った。
俺と神山さんは遠距離になる。神奈川と東京なんてすぐだという人も多いと思うけど、そんなことはない。俺も神山さんも部活に入る。だから会える時間は月1であればいい方だと思う。

本当に悲しそうな顔をするものだから。
そんな顔をしてほしくなくて。




「だからね、黄瀬く――」




彼女のくちびるに、俺のものを被せた。

肩を抱く手が少し強まる。
神山さんが俺のYシャツの裾をぎゅっと掴んだ。

そんな小さな仕草も可愛いと思えて。本当に好きだなぁって、幸せを感じた。




「神山さんだけッスよ。離れてもずーっと!」
「…うん」




照れくさそうに笑った彼女の手を握って、再び歩き出す。
君とずっと一緒にいられたらいいな、なんて。本気で思ってるから、何か笑える。今までの俺だったら、あり得ないから。






「だーいすきッスよ、えみ」






耳元で囁けば、彼女の顔は真っ赤。
その反応が面白くて笑えば、彼女は顔を赤くしたままムッとした。

そして仕返しだと言うように、






「私も好きだよ、…涼太くん」


俺の顔も、真っ赤だ。








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