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しばらく自己紹介を含めて雑談をしていると、今まであまり言葉を発していなかったセブルス君が私の持っている本をみて不思議そうな顔をした。
「それ、薬学の本か?」
「え?」
「…君が持ってるその本。薬学の本だろう?」
私の膝の上には、2人が入ってくるまで読んでいた本がそのままあった。
「う、うん。簡単な薬学書…かな」
「薬学、好きなのか?」
どこか先程よりもセブルス君が饒舌になった気がする。それに私も少し嬉しくなって答えた。
「まだ実践はしたことないんだけど…教科書とか読んでいて面白そうだなって。」
「そうか。」
「…セブルス君も、薬学好きなの?」
まだ興味を持っているだけなのに"も"とはおかしいかなと思いながらも質問すると、セブルス君は少し表情を緩くしながら答えてくれた。
「…ああ、僕も面白そうだと思ってるよ」
「そっか!一緒ね。」
「ああ。」
小さな小さな共通点が、なんだかとても嬉しく思えた。
するとしばらく隣で放置してしまっていたリリーが不安そうに呟いた。
「私…教科書とかは軽くしか目を通してないの。…大丈夫かしら?」
その言葉に、私は微笑んで答える。
「大丈夫よリリー。きっと目を通してすらいない子がほとんどだと思うわ。」
「でも、センもセブルスも読んだのでしょう?」
「読んだだけじゃ何も変わらないわ。皆スタートは同じよ。」
「そうかしら…」
「そうよ。皆で頑張りましょう。」
するとリリーは直ぐに元気になってくれた。
そしてリリーは私のヘアゴムが視界に入ったのか、それを見て目を輝かせた。
「ねえセン、そのヘアゴム素敵ね。とっても綺麗。」
その言葉にセブルス君も私のヘアゴムに目をやった。
「ありがとうリリー。これは…幼馴染みに貰った宝物なの。」
そう。二人が見ているこの青い綺麗なビーズで出来たヘアゴムは、大好きなリーマスがくれたものだった。
リーマスが私に何も告げずに引っ越したあの日から、毎日これをつけている。
ビーズの通っているゴムが延びたり切れそうになるとお父さんやお母さんに直してもらっていた。
「へえ…。そのセンの幼馴染みは、魔法使いじゃないの?」
「ううん、多分…魔法使いだと思うんだけど」
いや、確実にリーマスは魔法使いだ。でも彼が今同じ列車に乗っているのかは分からない。
不思議そうな顔をしているリリーに、2年くらい前に引っ越しちゃってそれから会ってないの、と続けるとリリーは残念そうな顔をした。
しかし直ぐににっこり笑う。そしてこう続けた。
「そう…。センの幼馴染みってどんな子なの?」
どんな子、かあ。
ひとつひとつ思い出す。
「…甘いものが大好きで、」
「…とっても笑顔が素敵で、」
「…とっても優しくて、」
「…私…凄く…」
リーマスが大好きだった。
今もそうだ。
リーマス、どこにいるの?
元気でいるの?
どうして…会いに来てくれないの?
「セン?」
「…っ!…あ…ご、ごめんなさい。」
気づけばリリーとセブルス君が私を怪訝な顔で見つめていた。
「セン、どうしたの?大丈夫?」
「うん、全然大丈夫!ごめんね。」
リーマスのことを考えると駄目だ。
なんだか2人に迷惑をかけてしまった。
申し訳なくて、少し席を外そうと腰を上げる。
「ごめんね、私ちょっと酔っちゃったみたい…。少し列車の中、歩いてくる。」
「え、あ、うん。気を付けてね…」
「うん。ありがとう。」
このときの私は、2人の心配そうにしてくれている視線に気づける程の余裕はなかった。
いつになれば
(この気持ちは…、)
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