09
おばさんが落ち着くまで、お母さんはずっとおばさんの背中をさすり続けた。
リーマスが、人狼に。
その現実は辛く重いものだった。
結局その日はリーマスには会わせてもらえず、家に帰った。
でも私はリーマスに会いたくて、それから毎日リーマスの家に通った。通うようになって2、3週間経つけど、私が行ってもおばさんが「ごめんね」と言うだけでリーマスには会わせてもらえない。だから私はリーマスの家の庭から、リーマスの部屋の窓をただしばらく見つめて帰るのだ。
それから数週間たったある日、私がいつものようにリーマスの家に行くと玄関のドアの前におばさんが立っていた。
「おばさん、こんにちは」
「こんにちは…センちゃん。今日もありがとね。でも…」
「うん、わかった…。」
今日も会えない。
想像はしてたけど、いつになったら会えるのかな。
私はいつものように庭に行こうとすると、おばさんが私を引き留めた。
「…センちゃん」
「なあに?」
するとおばさんは悲しそうに顔を歪めたと思ったら、私を抱き締めた。
「おばさん…?どうしたの?」
「センちゃん、ごめんね。ごめんね…。」
「おばさん…?」
おばさんは少し離れて、私の両肩に手を置いて話した。
「…あのね、おばさんたち…遠くに引っ越すことになったの。」
「……え?」
「リーマスとお父さんはもう先に行ってるの…。…ここだと、毎月満月は来るから…たとえ少なくても、他の人が近くに住んでいるからね、危ないでしょう?」
「………」
「それに…近所の皆さんに、リーマスが人狼になってしまったことがわかったら…あの子は、いじめられるかもしれない。」
「…そんなこと、…リーマスなのに!皆だって分かってくれるよ!」
「皆がセンちゃんみたいに、優しくはないのよ…。」
そんな、そんな…
リーマスはリーマスなのに。
リーマスと離れ離れなんて嫌だ。
「…やだ…私、やだ」
「ごめんね…センちゃん。もう、決まったことなの…」
「……リーマスは…そうした方が、いいの…?」
「…うん…そうよ。」
「…………」
リーマスはそれで幸せになれるの?
元気に、なれるの?
私が俯いていると、おばさんが私の手に何かを握らせた。
小さな可愛らしい袋で、おばさんに促され開けてみると、そこには綺麗な青のビーズで出来たヘアゴムと、折り畳まれた手紙が入っていた。
「…これ…?」
「…リーマスがね、センちゃんに用意してた、誕生日プレゼント。…あの子、当日に渡すつもりでいたんだけどね…」
あんなことがあったから、とおばさんは悲しそうに、作り笑いをした。
手紙を開けてみると、そこには見慣れていたリーマスの字が並んでいた。
━━━━━━━━━━━━━━
センへ
誕生日おめでとう!
また僕よりちょっとだけ
お姉さんだね。
3月には僕だって
追い付くんだから!
今年のプレゼントは
ヘアゴムにしたんだ。
絶対センに
似合うと思う!
つけてくれたら
うれしいな。
リーマスより
P.S.
セン、だいすき!
━━━━━━━━━━━━━━
涙が出そうだった。
でも、私はリーマスの前以外で泣きたくない。ここで泣いてしまったら、リーマスがいなくても大丈夫になってしまう気がした。
リーマスに、会いたいよ。
「…これ、貰ってくれるかしら?」
あの悲しそうな笑みをしながら聞いてくるおばさんに、私は涙を堪えながら何度も頷いた。
「…センちゃん、本当にありがとね。」
「…リーマスと…また会える?」
「もちろん…元気になったら、会いに行くわ。」
「本当に…?」
「うん、本当に…。」
おばさんはそう言って、私の手とり、小指を絡めた。
「ねえ、おばさん…」
「なあに?」
「リーマスに…私もずっと大好きって、伝えてもらえる…?」
「もちろん」
おばさんは少し、ほんの少し、嬉しそうに笑った。
そして小指を離すと「また改めてお手紙を書くわね」と言い、姿くらましで消えてしまった。
私はヘアゴムと手紙を握りしめ、しばらくその場に佇んだ。
再会を信じて
(さよなら、さよなら)
←→