22
組頭の部屋を出て、未だに頬に熱を持ったまま、私は自室へと繋がる廊下を歩いていた。
すると後ろから声がかかる。
「お、日向帰ってたのか。」
振り返ればそこにいたのは一つ年下の同期、高坂陣内左衛門だった。
「あ…陣左、ただいま。」
「おう、おかえり。」
今では普通に呼んでいる“陣左”という愛称だが、始めは組頭以外にそう呼ばれることに不満があったようだった。しかしそれも今は全くない、と私は思っている。
眉間に皺を寄せて「高坂だ」と逐一訂正していた頃が懐かしい、と感じるくらいには。
陣左は私の火照った顔をみて、怪訝そうな顔をした。
「なんかお前、顔赤くないか。どうした?」
「えっ!…な、なんでもない」
そう言いつつ、私はパッと顔を背けた。
そんな私の言動に陣左は納得はしていないみたいだけど、ふうん。と言って、その後は追求しないでいてくれた。
ほんの少しの沈黙を挟んで、私は声を落ち着かせて言葉を発する。
「あのね、今日忍術学園に行っていたの。」
「ん?ああ、尊奈門に聞いたよ。お前の母校だろ?」
「ええ、卒業してから初めて顔を出したから…10年ぶりだった。」
私の言葉に陣左は目を丸くさせた。
「俺たちが出会ってから、もう10年も経つのか」
陣左は元々父親がタソガレドキの忍軍だった。タソガレドキ城に仕える者は殆どがタソガレドキ忍び村の出身であり、外部から入ってくる人間はとても稀である。私がここに就職したときも物珍しい目で見られたものだ。
陣左も幼い頃から父親や他の忍者達に稽古を付けてもらい、15の歳を迎えたとき、正式に雑渡さんの下に配属されたのだった。
そこで私達は出会った。
「懐かしいね…あの頃は、陣左に嫌われてたなあ。」
「…その話はいいだろ。」
「ふふ、じゃあやめておくわ。…でも、10年か…決して短くは無かったわね。」
「…ああ。」
やっと火照りが消えた顔を上げて、空を見つめる。
本当に、この10年沢山のことがあった。
思い出すのは
(貴方と出会った頃のこと)
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