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「まっ、待ってください!!」
気づけば私は組頭の腕を掴んでいた。
ふと気づいたのは、その腕の逞しさ。
そうだ、この人は忍軍の組頭なんだから腕だって逞しいに決まってる。
その腕の感触に心を乱されながらも、組頭を引き止めた理由を思い出し、やっと口を開く。
「あ、えっと…その!なんていうか…」
組頭の顔を見れず、俯きながら言葉を探す。
「その、組頭の言われた嬉しそうな顔だとか、楽しそうな顔っていうのは…自分ではよく、分からないのですが…でも、えっと…」
そんな顔していたのは…
先生にお会い出来たこともだけど、
私が嬉しかったのは、
「…く、組頭の“おかえり”が、その…凄く、凄く嬉しかったんです。」
「…………え?」
「た、確かに先生とお会い出来たことも嬉しかったのですが!…でも、きっと、組頭の言われた顔をしていた理由は…組頭のおかげ、ではないかと…思い、ます。…はい。」
なんだか自分の言っている言葉が分からなくなってきたのと、照れ臭さで最後は殆ど声にはなっていなかったように思う。
「…でも、繊ちゃんいつもはそんな顔しないじゃないか」
「そ、それは!…でも、本当に今日は嬉しくて。…それに、早く聞きたくて……その、…急いで帰ってきたんです。」
きゅ、と思わず組頭の腕を掴む手に力が入ってしまった。
「そっそれから!…その、組頭の言われる大事な恩師に会うために…私は……その、…」
ああ、どうしよう。
ここまで言ったのに。
続きが、声にならない。
声は出ないのに、顔がどんどん赤くなることは自覚した。
途中で途切れた言葉の続きを催促するかのように、それまで障子から目を離さなかった組頭が振り向いた。
ここまで言ってしまったんだ、もう最後まで言ってしまえ。
「大事な、人に会うために…」
「…会うために?」
「わ、私は!…たっ、大切な人に貰った、大切な簪を付けて行きましたよ!」
「……!!」
どうして今ここで組頭に頂いた簪のことを伝えたのか、私もよく分からなかった。
しかし、ただ知っていて欲しかった。
何の反応も示さない組頭に、不安が募り、そっとを見上げるてみると、そこには目線をそらし、私が掴んでいない方の手で顔を覆っている組頭がいた。
指の隙間から見える肌は、いつもと比べて幾分か血色が良い。
これは、もしかしなくても…照れていらっしゃる?
そんな組頭の反応に、私の顔の熱も更に上昇して行く。
掴んでいた組頭の腕も今更どうしていいのか分からなくなってしまった。
「あ…と、その、…く、組頭?」
チラチラと組頭を盗み見つつ声をかけると、
「ああー…もう、」
そう言って頭巾ごと頭をがしがしと掻き、私を振り返った。
そして、
「こんなつもりじゃなかったんだ。」
「え、と組頭…?」
「こんなつもりじゃなかった。」
「は、はい…」
「もっと普通に、久しぶりに会った恩師の話や学園の話を、君に聞くはずだった。」
「………はい」
「もっと余裕な態度で、君の話を聞くはずだった。」
少し恥ずかしげに、少し悔しそうに“こんなはずじゃなかった”と呟く組頭。
その頬はまだ血色が良い。私も同じように、いや、それ以上に赤いだろう。
そこでやっと掴んでいた腕を離すと、組頭の目線が私の手のひらをほんの少し追った。
「まあ、なんて言うかな…」
そう呟くと組頭は私の頭に手を置いて、言葉を続けた。
「やっぱりその簪、君にぴったりだ。」
そう言うと組頭は部屋を出て行った。
赤い顔をした私と、
おかえり。という言葉を残して。
あの、組頭
(この胸の高鳴りは何ですか?)
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