01
月明かりに照らされる大きな木。それを見上げる、包帯に巻かれた男。そして男に近づく、一人の黒い影。
「…組頭。」
組頭、と呼ばれた男…雑渡昆奈門は振り返り自分に声をかけた本人を見やる。
「おや、帰ったね。」
するとその人は黒いもの…忍び装束に包まれた身体を沈め、片膝をつき自らの頭部と顔の大半を覆っていた頭巾を外し、頭を下げた。
ひとつに束ねなれた漆黒の長い髪が微かに揺れる。
「只今戻りました。任務は無事遂行致しました。」
「うん。ご苦労様、繊ちゃん。」
繊ちゃん、と呼ばれた人は顔をあげた。長く伸ばした髪と同じ色の瞳が、包帯の間から覗く片目と合わされる。
そしてその片目と同じく包帯で覆われていない大きな手が、自分よりも幾らか低い彼女の頭に乗せられた。
そして優しく囁いた。
「おかえりなさい。」
ぽんぽん、と手のひらで頭にほんの小さな衝撃がくる。そう、まるで親が子供にするように。
その行為に繊は僅かに頬を染め、目線を反らした。
「こ、子供扱いしないでください…。」
「…何言ってるの、繊ちゃんは子供じゃないか。」
「もう大人です。」
「20歳そこらじゃまだまだ子供だよ。」
「私今年で25です……。」
「……あら、そうだっけ。」
もうそんな歳かー、だなんて言いながらもまだ手のひらは頭に乗ったまま。
「…組頭。」
「うん?」
「手、退けてください。」
「嫌。」
「…退けてください。」
「もう…だって繊ちゃん、まだ大事なこと言ってないじゃない。」
繊は何を言われているのか分からず、眉間に皺をつくる。
すると彼は顔をぐい、と近づけてきた。
「繊ちゃん。」
「は、い……」
「おかえりなさい。」
「…………あ」
「気づいたかい?」
「ふふ…、はい。」
そう、たった一言。
「ただいま、です。」
「うん、よくできました!」
その一言を
(待ってたんだよ。)
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