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※尊奈門視点
繊さんの爆弾発言から暫く呆然としていたが、やっとのことで我に返り食事を頼んだ。
繊さんは持っていたぼた餅入りのお重を食堂のおばちゃんに預けていて、食堂に来た先生方や例の保健委員の子達に配ってほしいと頼んでいたのが聞こえた。
そうしてなんとも言えない異色の四人で食事が始まったのである。
しかし最初こそ気まずさがあったものの、繊さんが会話を繋げてくれて中々楽しい食事となった。
繊さんの恩師だという厚着先生は男の私から見ても格好良くて、繊さんが慕っているのも頷ける。
それから暫く食事と談笑を楽しんだあと、繊さんは他の先生方にご挨拶に行くと言って席を外してしまった。
ああ、これは気まずいぞ。
繊さん抜きでこの面子とは…
そんなことを考えていたら私の隣でお茶を飲んでいた土井半助がひとつ息を吐きながら言った。
「それにしても、厚着先生にあんな美人な教え子さんがいらっしゃったとは知りませんでしたよ。」
「はは。まあ、私も10年振りですからね。」
「いいですねえ、教え子が立派になって会いに来てくれるなんて…」
それから暫く二人の教員談義を聞いていたが、土井半助がふと思い出したように採点忘れてた!と言って食堂を出ていってしまった。
繊さんも土井もいないこの気まずい空気はなんとかならないものかと考えていると、厚着先生から声をかけられた。
「諸泉君…だったかな。」
「はっはい!」
驚いて返事をすると厚着先生はどこか優しい笑みを浮かべて続けた。
「そちらでの日向の仕事振りはどうだい?」
「…仕事振り、ですか?」
「あいつ、今日私の部屋に来てからした卒業後の話は…ほとんど君や上司のことばかりでね、それも凄く楽しそうに。」
よっぽど今の職場が好きなんだろう。
そう話した厚着先生の顔は優しくて、繊のことを凄く大事にしているのが伝わってきた。
そして何より、繊さんが私たちのことを楽しそうに、嬉しそうに恩師に話したことが
…素直に、凄く嬉しかった。
厚着先生が繊さんを大切に思ってるように、私を含めタソガレドキ忍軍も同じように繊さんを大切に思ってる。
日々の彼女を思い出して、一つ一つ丁寧に言葉を紡いでいく。
「…私は繊さんが任務を失敗したところなんて見たことありません。
いつだって格好良くて、綺麗で、くの一でない私も憧れます…。」
私の言葉に厚着先生は口を挟まず、ただ目をつむって聞いていた。
それを見て私はさらに続ける。
「繊さんはくの一としても素晴らしいですけど、それ以上に…人として素晴らしいと思います。
いつだって、誰にだって優しくて…
私たち忍者隊にはもちろん、鉄砲隊の人達や、女中さん達にも……
いつも笑顔で接してくれます。」
「尊奈門君、いってらっしゃい。」
「尊奈門君、大丈夫?」
「尊奈門君、大好きよ」
「尊奈門君、お帰りなさい!」
いつも一緒にいるはずなのに、いざ思い出してみると…私は予想以上に繊さんのことが大好きみたいだ。
「いつも優しくて素敵な彼女は、タソガレドキ城の皆から愛されてますよ。」
結局はそういうことなのだ。
私も、組頭も、高坂さんも、山本さんも、皆。
皆繊さんが大好きなんだ。
私がやっと一息ついて厚着先生を見ると、彼は安心したように、嬉しそうに笑って言った。
「ありがとう、諸泉君」
「い、いえっ…」
「君のような後輩を持って、あいつは幸せ者だな。」
そう言って目を細めた厚着先生に、少し目を奪われてしまった。
何故ならその目があまりにも優しくて、
まるでそれは、
(父親のようだった。)
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