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それから食堂まで尊奈門君は私の手を引きながら早足で歩いていった。
途中何度か曲がる方向を間違えそうになっていたので、そのたびに私が教えながら行った。
それにしても食堂の場所が変わっていなくて助かった。尊奈門君に偉そうに道を教えておいて、場所が違ったとなればおお恥をかくところであった。
厚着先生と土井先生を置いてきてしまったなと思っていたら食堂に着いたあと直ぐに追い付いてくださったので良かった。
休日であるし、昼食の時間帯より少し遅くなってしまっていたので、食堂にはほとんど人がいなかった。しかしいいにおいは漂ってきている。
「さあ、入ろうか。」
厚着先生のお声かけで私たち4人は食堂へと入っていった。
「あら、厚着先生、土井先生。珍しい組み合わせですね。」
随分と懐かしい声が聞こえた。
厚着先生の後ろから顔を出すと、そこには10年前と変わらずに、食堂のおばちゃんがいた。
「こんにちわ、ご無沙汰してます。」
私がそういうとおばちゃんは凄く驚いた顔をした。
「え!繊ちゃん!?」
はい、と笑顔で返すとおばちゃんは台所から出てきて手を取ってくれた。
「久しぶりじゃない!やだ、別嬪さんになっちゃって。」
「いえいえ、全然ですよ。おばちゃんこそ全くお変わりなくて吃驚です。」
「やあねえ、繊ちゃんたら!」
おばちゃんはそう言うけど、本当にそう思う。おばちゃんは10年前のおばちゃんそのままだったのだ。
元気で、暖かい。
「繊ちゃんももういい歳でしょう。結婚はしたの?」
「まさか。中々ご縁がなくて。」
「こんなに綺麗なんだからいくらでも相手はいるでしょうに。あ!土井先生なんてどうかしら?」
「ええ!?わっ、私ですか!」
急に振られた土井さんは真っ赤な顔で慌てふためいていた。そして私の横では尊奈門君が朝のような不機嫌な顔になっている。
なんだかこの光景は面白いな。
「ふふっ、土井さん程の素敵な方、私にはもったいないですよ。」
「あら、そお?」
「それに、私の初恋の方はこの学園にいらっしゃるので。」
「「ええ!?」」
土井さんと尊奈門君が同時に驚いた。本当はこの2人絶対に仲が良いと思う。まあ敵対視しているのは元々尊奈門君だけなのだけれど。
そして私の言葉におばちゃんは楽しそうに「まあ!」と声を上げる。
厚着先生に関しては私の言葉を聞くなり溜め息をついた。
私はというとクスクス笑いながら、厚着先生の腕にそっと自分の腕を絡めた。
「私の初恋の方は、厚着先生です。」
「「ええ!!」」
「あらまあ!うふふ…」
土井さんと尊奈門君はまた驚いていた。私は本気なのになあ。在学時代、先生として尊敬していたのはもちろん、本気でお慕いしていたことがあったのだ。
「そういえば繊ちゃんは在学時代は先生が大好きだったわねえ。」
「はい。今も変わりませんよ。」
私の隣で厚着先生はまた溜め息をついた。
「そんなことだろうと思ったよ。」
「もう、先生。私は本気なんですから。」
「後にも先にもそんな趣味の悪いことを言うのはお前だけだ。」
「先生は素敵ですよ。」
私の言葉に先生は諦めたのか適当に返事をして私の頭を一撫でし、腕を離した。
「私、先生が宜しければいつでもお嫁に行けますからね。」
「寝言は寝ているときだけにしなさい。」
「もう…。」
やっと厚着先生から目を離すと、固まっている土井さんと尊奈門君。そして相変わらずにこにことしているおばちゃんがいた。
初恋のお相手は
(16歳年上でした。)
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