11
あれから少し歩くと忍術学園に着いた。
とりあえず入ろうと正門へ向かうと、懐かしい景色が今も変わらずそこにあった。
しかしプロのくの一となってから、変装もせずに正門などから堂々と入ることがなかったものだからなんだか緊張してしまう。
すると隣から同じ意見が聞こえた。
「なんだか、正面からなんて緊張しちゃいますね…。」
「ふふっ、私も今同じこと考えてた。」
二人で笑いあい、そろそろ入ろうかと門を叩く。
トントン。
「ごめんください。」
しばらくするとどこか間延びのした声が返ってくるのと同時に戸が開いた。
「はーい。どちら様ですかあ?」
随分と若い人で驚いた。新しい事務員さんだろうか。私がいた頃は元気のいいおばちゃんはだった気がする。
「あの、こちらの卒業生なのですが…厚着先生にお会いできますでしょうか?」
「はい!大丈夫ですよお。じゃあこちらの入門表にお名前を書いてください!」
渡された表に名前を書く。
母校であるし、本名で良いだろう。
「はい、書きました。」
「ありがとうございます!日向繊さんですね。…あ、お連れの方もご記入お願いしまあす。」
そう言って事務員さんは尊奈門君に入門表を渡した。
尊奈門君は本名で書くのか迷っていたみたいだけど、私の名前が本名で書いてあったのを確認したのか、自分も本名で書いていた。
「ありがとうございまあす!じゃあご案内しますね。」
事務員さんに着いて学園内を進んでいく。
ちなみに尊奈門君は例の土井さんを探しに行ってしまった。なんだかんだで、彼は土井さんが好きなのだと思う。
尊奈門君から受け取ったお重を抱えて事務員さんに着いていっていると、変わっていないものもありはするが、私の卒業後に出来たであろうものも多く目に入った。
周りのものに目を奪われていると、前を歩いていた事務員さんが振り返った。
「着きましたよ!」
事務員さんが案内してくれた部屋には確かに「厚着」と書かれた板が掛けてあった。しかし私の記憶だとよく通っていた先生のお部屋はもっと奥だと思っていたのに…。10年の間に先生の部屋の場所も変わったのか。
私がそんなことを考えている間にも事務員さんは障子の縁を叩いていた。
「厚着先生、小松田です。お客様ですよお。」
この事務員さんは小松田さんというのか。
小松田さんが呼びかけると中から懐かしい低めの声が聞こえてきた。
「どうぞ。」
先生だ。厚着先生。
10年も会っていなかったのに、声を聞いたら今すぐにでもこの障子を開けてしまいたくなった。
小松田さんが障子を開けた。しかし小松田さんの隣に立っているこの角度からは先生の顔は見えない。
「失礼しまあす。お客様を連れてきましたあ。卒業生らしいですよ。」
「ありがとう、通してくれ。」
「はあい。」
小松田さんは私の方に向き直り「ごゆっくり!」と言って、来た道を戻っていった。
すると中から先生の声がかかったので、私は開いている障子の前に正座し、深く頭を下げた。
「失礼致します。」
ゆっくり、本当にゆっくり顔を上げると、そこにはとても驚いた顔をした先生が。
10年前に比べてシワも増えたし、貫禄も更に出ている。
でもやっぱり、そこにいたのは
紛れもなく私の大好きだった先生。
「…お前、…もしかして、日向か…?」
その言葉を聞いた瞬間、私は先生の胸に飛び込んだ。
先生、先生、
(会いたかったです)
← →