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あれから尊奈門君を迎えに行った。
すると尊奈門君はもう着替えていて、準備万端という感じだった。

「尊奈門君、遅くなってごめんね。」

急いで謝ると尊奈門君はいつもの可愛い笑顔言った。

「全然大丈夫ですよ!でもよかった。繊さん忘れてるのかと思いましたよー。」
「わ、忘れないよ!ただ…組頭に挨拶に行って、ちょっとね。」


(似合ってるよ。それに…綺麗だ)

組頭の言葉がよみがえってくる。
あんなの、ずるい。

いや、待て。相手はあの組頭だ。
組頭にどきどきしただなんて嘘だ。
だって仕事はさぼるし、座るときは足揃えるし…

組頭にどきどきしただなんて…!


「繊さん?」
「え、あっごめん!」
「顔、赤いですよ?」
「そ、そんなことないよ。暑いだけ。それより、もう出ようか!」

不思議そうにしている尊奈門君を連れて城を出る。

私が手に持っていた学園用のぼた餅は、尊奈門君が持ってくれた。

「繊さん、このぼた餅私の分もありますか?」
「もちろん。城の御勝手に置いてあるから、帰ってきたら食べようね。」
「はい!」



しばらく他愛のない会話をしながら歩き、忍術学園が間近という頃、尊奈門君が私の名を呼んだ。

「繊さん」
「ん?」
「…繊さん…えっと…」
「……?」
「…土井半助には、近づかないで下さいね。」


土井、さん?はこの間尊奈門君が言っていた人か。どうして尊奈門君はそこまで私を土井さんに近づかせたくないのだろうか。

「どうして?」
「それは…」

尊奈門君はついに歩みを止めてしまった。

「尊奈門君?」
「…嫌なんです」
「え…?」
「…繊さんを、とられるの…嫌なんです。」

尊奈門君を見ると、顔を真っ赤にしていた。

「19にもなって子供みたいなこと言ってるのは分かってますっ…けど、私は何一つ土井半助に敵わないうえに、繊さんまでとられるのは……嫌なんです。」

よく理解は出来ないけれど、とても嬉しいことだということは分かる。

なんといっても、私は後輩が大好きなうえに、尊奈門君が大好きなのだから。

でも、

「どうして、私が土井さんにとられるの?」

そう、そこが理解できないのだ。
すると尊奈門君は悔しそうに呟き始めた。

「…土井半助は、実力のある忍者です。」
「学園の先生だものね。」

「私は一度も勝てませんでした。」
「それは…経験の問題じゃないかしら?」

尊奈門君はまだ19歳なのだ。
学園の先生ならば経験を積んでいる人だろうから、若くても私と同じくらいの歳だと思う。

「それに…容姿は良いですし」
「尊奈門君だって素敵よ?」

「学園での人望も厚いです」
「私だって尊奈門君を信頼してる」

「歳は繊さんと同じくらいで…」
「うん…」

「凄く悔しいですけど、…いい男なんです。」
「……」


土井さんが、とても素敵な人なんだということは分かった。
しかし依然としてそれが何故私と関係するのかがわからない。

すると尊奈門君は俯きながら呟いた。


「…土井半助は……繊さんに会ったら、…きっと、繊さんのこと、好きになります。」

「……え?」
「繊さんだって…きっと、好きになる。」
「……え、え?」
「なにより、お似合いです…。」
「………」
「そしたら繊さん、タソガレドキなんて…辞めちゃうと思うんで…」


…えっと…つまり、土井さんはとても素敵な人だから、土井さんに会ったら私と土井さんは好きあってしまうと。

そしたら私がタソガレドキを辞めてしまうから、土井さんにとられてしまうってこと…?

何よそれ。


「尊奈門君たら馬鹿だなあっ」
「えっ?う、わあ!!」

思わず尊奈門君に抱きついた。
ぼた餅の入ったお重は何とか尊奈門くんが守ってくれている。

「ちょ、ちょっと繊さん!?」
「本当に馬鹿ね。」

「……。」
「私、そんなに軽い女に見えるのかしら?」

「い、いや、そうじゃなくてっ」
「ふふ…わかってる。でもね、私、しばらくそういう人はいらないの。」

「…え?」
「それに万が一、土井さんと好きあったとしてもタソガレドキは辞めないわ。」
「…本当ですか?」
「ふふ、あたりまえじゃない。」

私の後輩はこんなにも可愛かったのか。堪えようとしても自然と頬が緩んでしまう。

少し体を離して、尊奈門君の顔を見る。

「私が辞めちゃったら、尊奈門君一人で組頭のお世話ぜーんぶするのよ?大変でしょ。」

私が笑って言うと、尊奈門君もあの私の大好きな笑顔を見せた。

「ははっ、それは凄く困りますね。」

「でしょう?…それに私、しばらく尊奈門君離れはできそうにないわ。」
「私、離れ…?」
「うん。私ね、尊奈門君が思ってる以上に、あなたのこと大好きなのよ?」
「繊さん…」

そう。あなたが大好きなの。
後輩の中でも人一倍頑張り屋で、
人一倍人懐っこくて、
人一倍笑顔が素敵なあなたが。


「尊奈門君が離れてくださいって言っても、離してあげないんだから。」
「ははは…約束、ですからね?」
「もちろん。」


もう一度尊奈門君に抱きつくと、今度はぼた餅を持っていない方の手を、背中に回してくれた。

「私、組頭だけじゃなくて、繊さんにも一生ついていきます。」
「嬉しいなあ。私は組頭みたいに、定年までなんて甘くないわよ?」
「はは、本望ですよ。」

本当に可愛い後輩を持って、私は幸せだ。土井さんという方がどんなに素敵だろうと、私は当分この子から離れられない。


「さて、そろそろ行こうか。」
「はい!」




笑顔輝く
(君が大好きよ)





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