08


やっと着物も決まった。
薄めだけどお化粧もしたし、
髪の毛も綺麗に結った。


着物は薄い水色で袖と裾に少しだけ柄の入った落ち着いたもの。

紅は濃くなく、自然なものを。

纏めた髪に差したのは以前に誕生日祝いだと……組頭から頂いた簪。

綺麗に透き通った薄紫の蜻蛉玉が付いた簪は、今日の落ち着いた着物に合うだろう。


正直言うとこの簪を着けたのは初めてだった。

鏡の前でなら何度も付けていたがこうして外に付けていくのは初めてだ。

そう考えていたら遠くから人の来る気配がした。きっと女中さんだ。しばらく待っているとそれは私の部屋の前で止まった。

トントン。

「日向さん、朝食をお持ちしました。」
「はーい。」

返事をして襖を開ける。

「わあ、今日も美味しそう。ありがとうございます。」
「いえいえ。日向さん、今日はおめかしされてどちらに?」

朝食の乗ったお盆を私の部屋に入れてくれがら女中さんに聞かれる。

「今日は母校に。お世話になってた先生に挨拶に行くんです。」
「そうですか。それでぼた餅を?」

「はい。先生の好物でしたから。」
「きっと先生、喜ばれるでしょうね。」
だと嬉しいです、と答えながらお盆の前に座り手を合わせると「あら、」と女中さんが声を出した。

「どうかされました?」
「いえ、素敵な簪ですね。日向さんにとても似合ってらっしゃいますよ。」
「あ、ありがとうございます…。」

少し照れてしまう。
でも、やっぱり付けてよかった。


女中さんは笑って一礼をすると私の部屋を後にした。


簪、似合ってる…のかな。
そうだと嬉しいけれど。

とにかく、早くご飯を食べてしまおう。
食べ終わったら、この簪をくれたあの方に会いに行こう。別に見せに行く訳じゃないわ。ただ、出発前に挨拶に行くだけよ。本当に。




あの人は
(気づいてくれるかしら)






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