「セン?」
「うん?」

「何かあった…?」
「…な、んでもない!」


最近彼女はおかしい。

1年生の頃から密かに僕が想いを寄せていた女の子。

僕が人狼だということがわかったときも変わらぬ態度で、満月の次の日は談話室で僕の帰りを待っていてくれた。

優しく照れ屋な彼女にどんどん僕は惹かれていった。


けじめをつけようと5年間抱き続けた想いを彼女に告げた。

そしてなんとOKされ付き合いはじめてから早7ヶ月。


彼女は最近あまり目を合わせてくれないし、少し避けられている気がする。

正直僕としては辛いわけで、できれば理由だけでも聞きたいのだ。

しかし彼女は何も話してくれない。


聞いても"なんでもない"の一点張りだ。




「で、どうだと思う?」
「うーん…」


遂に耐えられなくなりジェームズとシリウスに相談することにしたのだ。


「僕、嫌われたかな…?」
「いやー、それはないでしょ。」
「リーマスが気にし過ぎなだけじゃないのか?」


「うーん…」


まあジェームズやシリウスに話したところでセンの気持ちがわかるわけではないのだけど、誰かに聞いてもらわないとなんだか変な方向にばかり考えがいってしまう。

彼女に何があったんだろうか。






場所は変わって女子寮。


「で?セン、リーマスにちゃんとやってきたの?」


ベットにお互い向き合って座っているのはリリーと顔を真っ赤にしている##NAME1##。


「や、やっぱりできない…っ。」
「もう、何でやらないのよ!」

「だ、だって…!恥ずかしいよ…!!」


先程リーマスと別れ女子寮に戻ると早々にリリーに捕まった。

まあ、理由はわかりきっているんだけど…

この間リリーにした相談。


「もう…セン?あなたそんなことだから先に進まないの。」


わかってるのよリリー。


「ちゃんと行動に移さなきゃリーマスだってわかってくれないわ。」


うん、そうよね。
その通りよ。


「リーマスだって、きっと不安になってるわ。」


そんな風に思ってくれてるのかな…

でも…


「手も繋げないなんてリーマスが可哀想よ!」


そう、付き合ってもうすぐ7ヶ月。
まだ手も繋いでない。

何度かそんな雰囲気にはなったりはしたけど私が恥ずかしくて…

リーマス側にある手にわざと荷物を持ち代えたり、髪の毛を直す振りをして誤魔化した。


それをリリーに何気なく話したところ凄く怒られ、対策を考えることになったのだ。


そしてまず最初に制服の袖を掴んでみようだとかさりげなく触れてみようだとかっていう結論に至ったんだけど…実現出来ずにかれこれ1ヶ月が経ってしまった。


「悪いとは思ってるわ。でも…」
「でも、何よ?」

「だから…」
「だから?」

ああ、もう。
こんなこと言えないってば。


「だから何?」
「だっ、だから…!」


「……ぉ……ょ」
「…何?セン、聞こえないわ。」


…もう!!!


「だっ、だから!私だって、手、繋ぎたいわ!…けど、もっと、って…思っちゃうのよ…」


リリーの顔は見ずに言ったけど、きっと驚いてる。


「私、リーマスのことちゃんと好きなの…。大好きなの…。けど、だからこそ、…一度触れたら、手、繋ぐだけじゃきっと我慢できない…。」

「セン…。」



リリーをそっと見ると真剣な眼差しで私を見てる


「…あのねリリー、私、リーマスと手繋ぎたいわ…。」
「うん。」

「でも、抱き締めても、もらいたい…。」
「…うん。」

「…っ、キス、だって、したいの…っ」
「…うんっ、」

「…私、…変かな?」
「……っ、」

「こんなっ私、じゃ、…リーマスっ、きっ、嫌いに、…なっちゃ、…かなあっ?」
「…センっ!!」


涙が溢れ出した私を、リリーは強く抱き締めてくれた。

泣かないって、我慢してたのに、駄目だった。

リーマスを思い浮かべたら、涙が止まらない。


「…リっ、リーマス、にね、嫌われたくっ、…ない、の」
「うん…」

「好きだから…っ怖いの!」


リリーの胸に涙でぐちゃぐちゃな顔を埋めていると、少し離され顔を覗き込まれた。


「…あのね、セン、あなた全然変じゃないわ…。」
「…そう、なの?」


リリーの優しい笑顔が視界いっぱいに広がる。


「そうよ、セン。恋をしている人は誰だってそういうものなの。」
「…じゃあ、リーマス、私のこと、嫌いにならない…?」


そう尋ねるとリリーはちょっと楽しそうに笑った。


「ふふっ、馬鹿ね、セン。私が今言ったこともう忘れた?」
「え…?」

「恋する人は誰だって、って言ったでしょう?」
「うん…」


「リーマスだって、セン、あなたに恋してるわ。」


あ…


「リーマスに自分の気持ち、全部言ってみたら?どうせセンのことだからあんまり好き、とかも言ってないんでしょう?」


そういえばそうかもしれない…私、リーマスに、下手したら付き合ったとき以来何も自分の気持ち伝えてない。


いつのまにか、リーマスなら全部分かってくれてる気になってた。


「…私、ちゃんと言うわ。」
「うん。」

「好きって。」
「うん。」

「一番…ううん、リーマスしか、好きじゃないって。リーマスだけが好きって、ちゃんと言う。」
「リーマスきっと喜ぶわ。」



リリーはそう言うとまた優しく抱き締めてくれた。


「…あ、でもリリーは別よ…?…リリー、大好き。」
「ふふ、私もセン大好き。」


そして2度背を叩くと体を離した。


「セン、行ってらっしゃい。」


早く、リーマスに伝えてきなさい

そう笑ったリリーはやっぱり綺麗で、元気が出た。


枕元にある櫛で髪の毛を整えて、扉に向かう。

ドアノブに手をかけて振り返る。


「行ってきます」



リリー、私、頑張るわ。








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