あの忌々しいジェームズの演説から何日か経ったある日、いつものように談話室で悪戯の計画を練っていた。


「えっと…お話し中ごめんなさい…。リーマス、ちょっといいかしら…?」


女子生徒が話しかけてきた。

フ、と目をやるとそこにはリーマスに話しかけた艶のある黒髪の少女と鮮やかな赤毛の少女がいた。

「あぁ、大丈夫だ「ああああ!!!!」

リーマスの返事に被ってジェームズが叫び声をあげた。

「なんだよ、うっせぇ!!」


ジェームズを怒鳴りつける。

ガッ

いきなりジェームズに胸ぐらを掴まれる。なんでこいつこんなに目がキラキラしてやがんだ。


「な、なんだよ。」

「この子だよ!この子がこの間話したリリーだ!!」


そう叫ぶとリリーと呼ばれる少女はゲッという顔をして逃げていった。


そしてジェームズは彼女を追いかけていってしまった。

呆然としていると早くも正気を取り戻したリーマスが先程の黒髪の少女に話しかける。


「ごめんよセン。どうしたんだい?」

(あぁ、こいつがこの間話していたやつか。)


すると彼女も用件を思い出した。

「あ!…そ、そうだわ。えっとね、この間図書室にこれ忘れていってたから…。」


そう言って羽ペンを差し出した。


「ああ、ありがとう。どこにいったのかなと思ってたんだ。」


そう微笑んで受け取る。その光景をジッと見ていたら少女と目が合ってしまった。




目が合った彼女は少し目を泳がせたが、小さく会釈をしてきた。


俺も反射的に会釈を返すとそれに気付いたリーマスが言った。



「セン、紹介するよ。友人のシリウス・ブラックだ。」


「おいリーマス。」

俺は家名まで出さなくてもいいだろう、と少し鋭くした目で訴えた。


するとリーマスは微笑んで

「大丈夫、」

と言った。


(何が大丈夫なんだ。)


彼女を見ると目を点にしていた。


やはりこいつもか。と思った。




しかし、違った。

彼女は途端に顔を輝かせ、こう言った。


「あなたのファーストネーム、"シリウス"って言うの?一等星と同じ名前ね!凄く素敵!」


先程までのおどおどとした口調はどこへやら、これ見て!と言い自分の持っていた鞄の中から1冊の本を取り出し、あるページを開いて俺に向けた。


そこには強い輝きを魅せる幾多もの星。


その1つを指差し


「あのね、この星も"シリウス"って名前なのよ!」


そう嬉しそうに話す彼女に俺は呆然とした。






なにも喋らない俺に彼女は自分のしたことが今更恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして


「ごっごめんなさい!私ったらいきなりなにして…!///」


そう言って顔を本で隠した。




そんな彼女を見て気になったことを聞いてみる。


「なぁ、お前俺の名前を聞いて何か思ったか?」


すると彼女は顔を隠していた本をどかして真っ赤な顔で答えた。


「えっ、だから…素敵だなって…。」



「いや、そっちじゃなくて、ファミリーネームの方。」


「えっ、ブラック君、だよね?」


「あぁ…。」



彼女は、どんな答えをくれるのか。


親友のように、俺は俺だと、言ってくれるのか。


はたまた、家名に気付き、態度を変えるか。




「ご、ごめんなさい…。特に何も……。」







そう、申し訳なさそうに言った彼女を見て、何故か笑いが込み上げてきた。



「ハハッ、お前最高だよっ! 特に何もって…アハハッ!」


「え…!ごめんなさい!私また何か……!///」


「違う違う、嬉しいんだ。」


「え…?」



そう、嬉しかったんだ。


家名を聞いても何も感じないでいてくれた君に。





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