名前を決めようと、最初に言い出したのはジェームズだった。

悪戯道具と爆発の跡だらけの必要の部屋で、忍びの地図はもうすぐ完成しようとしていた。


「せっかくの機会だ。『悪戯仕掛け人』としての名前を残そうじゃないか」


地図のタイトルを書く段階になってジェームズが芝居がかった口調でそう言うと、皆乗り気になった。

リーマスが読んでいた本を閉じ、ちょっと考えて言った。


「じゃ、僕は『ムーニー』かな」
「えっ、ばれちゃったりするんじゃない!?」


ピーターが目を丸くすると、リーマスはニヤッと笑った。


「少しスリルがあるのも面白そうだろ」


ジェームズが頷いた。


「確かにそのくらいの方が仕掛け人らしいな。その考え方でいくと・・・・・・よし、プロングズにしよう」


ピーターはしばし考え、落胆したように首を振った。


「ネズミじゃあんまりかっこよくならないな」


ジェームズが笑って言った。


「ワームテールなんかどうだい?」
「嫌だよそんなの!」


リーマスが壁にもたれたままずっと考え込んでいたシリウスに声を掛けた。


「シリウスは決めた?」
「決めた。パッドフットにするよ」


リーマスは言葉を失い、ジェームズとピーターは言い争いをやめた。
ピーターは恐る恐るシリウスに尋ねた。


「本当にパッドフットにするの?」
「ああ」


シリウスはそう答えるとちょっと顔をしかめた。


「それにしても腹が減ったな。完成させるのは昼食を食べてからにしようぜ」


そのまま悠々と部屋を出て行った。
残されたジェームズはピーターに聞いた。


「シリウスはパッドフット(肉球)にするらしいけど・・・・・・ピーターはもっとかっこいい名前にするかい?」
「・・・・・・僕、ワームテールでいいよ・・・・・・」


食後、4人は寮に向かって庭に面した回廊を歩いていた。


「それにしてもホグワーツの王子様がパッドフットとはね!驚いたよ!」


食事中ジェームズはずっとこのことでシリウスをからかっていた。
シリウスが顔をしかめた。


「しつこいな。名前なんて何だっていいだろう」


そう言ってジェームズの頭を叩くと、シリウスは急にジェームズのいる向こう側をじっと見つめた。


「悪い、用事思い出したから先行っててくれ!」


彼はそう言うや否や庭に出る通路へ走って行ってしまった。


「シリウス、どうしたんだろう?」


ピーターが首をかしげると、リーマスがシリウスの見つめていた方向を見て吹き出した。


「・・・・・・ああ、大体わかったよ」


ジェームズも同じく外を見るとニヤッと笑った。


「諸君、悪戯仕掛け人の出番のようだ」


もう季節はすっかり秋になっていて、うだるような暑さも無く過ごしやすい。

ナマエはお気に入りの本を持ってきて庭で読書するのが日課になっていた。

ベンチを覆っている落ち葉を払い、腰掛ける。

その時がさがさと葉っぱを踏む音がして、見知った顔が現れた。ナマエはその大きな黒犬に微笑んだ。


「おいで、パッドフット」


パッドフットは尻尾を振ってナマエに近づくとベンチに飛び乗った。

ナマエがこの黒犬に出会ったのは一週間ほど前のことだった。

初日は慌てたように逃げられてしまったが、敵意が無いことがわかったのか最近は毎日一緒の時間を過ごしていた。

ナマエが本を読んでいてもちょっかいを出すことなく、じっと彼女を見つめている。

でもたまに遊んでやるととても嬉しそうで、可愛くて思わず名前までつけてしまったのだ。

ナマエはパッドフットの背中を撫でて話しかけた。


「私なんかと一緒にいて退屈じゃないの?」


するとパッドフットは否定するように小さく唸った。


「そう?それなら良かった。私もパッドフットと一緒にいるの、好きだよ」


そう言うとパッドフットはぶんぶん尻尾を振った。

ナマエがその様子を見て吹き出すと、また落ち葉を踏みつけるがさがさという音がした。

現れたのはジェームズとリーマスとピーターだ。笑いをこらえているような顔をしている。

パッドフットがなぜか落ち着き無く立ち上がった。


「みんな。どうしたの?」


ジェームズが機嫌よく答えた。


「やあ、ナマエ。この犬は君のペットなのかい?」
「違うよ、最近よく会うの。パッドフットって呼んでるんだ」


ナマエが答えるとリーマスが微笑んだ。


「可愛い名前だね。どうしてパッドフットにしたの?」


ナマエも微笑んだ。


「この子ね、撫でてると仰向けになって肉球が見えちゃうの。だから・・・・・・」


その瞬間、パッドフットが走ってどこかへ行ってしまった。


「パッドフット!?」


なぜかジェームズ達は爆笑している。
ナマエがどうしたんだろうと不安がっていると、今度はシリウスがパッドフットの逃げた方向から歩いてきた。


「シリウス!黒い大きな犬を見なかった?」
「え?」


シリウスの目が泳いでいるのにナマエは気づかない。
ジェームズが笑いながら言った。


「ああ、シリウスは会ったことがないもんね。パッドフットっていう名前で、ナマエにすごくなついてるんだ」


ピーターも口を挟む。


「シリウスの来た方向に逃げちゃったんだけど・・・・・・」


リーマスがにやつきながら締めくくった。


「ところで、用事って何だったの?」


シリウスは真っ赤になってわなわな震えるとジェームズ達の肩を思い切り押した。


「帰るぞ!」


ナマエは少し寂しそうだった。


「もう寮に戻っちゃうの?パッドフットもいないし、私も帰ろうかな」


シリウスが答えた。


「そうだな、少し冷えてきたし。・・・・・・その犬のこと、そんなに気に入ってるのか?」

ナマエは迷い無く答えた。

「うん、大好き」


シリウスはちょっと黙り込んだが、やがて頭をぽりぽりかきながら口を開いた。


「その犬も懐いてるんなら、また明日も来るだろ」
「そうだね」


ナマエが微笑むとシリウスも笑った。

「二人とも、早くおいでよ!」


前のほうを歩く3人に返事をして、シリウスが走り出した。
ナマエはシリウスの背中を見てひとりごちた。


「たまには、シリウスも来てくれたらいいのにな」


そして本を持つと、シリウスの後を追いかけた。