横浜の冬は冷える。

そりゃあ雪国なんかとは比にもできないけれど、海の近くは寒いのだ。

しっかりとマフラーを巻き、そこに口まで埋めながら登校する。


早く暖かい教室に入りたい一心でいつもより早足で学校へ向かう。


学校へ着くと靴を履き替えて階段を上る。

どうして教室は三階にあるのかしら。
毎日この階段が億劫で仕方ない。

なかなかにきつい階段を上り終え右に曲がると我が教室だ。


扉を開けて中に入ると既にだるまストーブの周りを数人が囲っていた。

友人たちもいるようなので私も入れてもらうとしよう。


「おはよう名前」
「あ、名前おはよー」
「おはよう…寒いっ」
「はは、ほら暖まりな」


友人たちは私の入るスペースを開けてくれる。これは有難いと机に鞄も置かずにストーブに当たる。


「あったかーい…」
「ね。でも私は当たりすぎてなんか痒くなってきた」
「分かる!」
「あははは!」


友人の身体を掻く姿に笑っていると、隣にいた別の友人が何か思い出したように声をあげた。


「え、何?」
「名前、誕生日おめでとう!」
「そうだ!おめでとー!」
「うわあ、ありがとう!」


ストーブの前で騒ぐ声が伝わったのか教室にいた人にもおめでとう、と言われた。なんだか照れくさいけれど、やっぱり嬉しい。


照れ笑いを浮かべているところで担任が教室に入ってきて、ストーブの前の暖かさからは引き離されてしまった。



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全ての授業が終わりあとは担任のSHR だけだ、と帰りの支度をしていると教室の扉の方から名前を呼ばれた。


「名字、会長が呼んでるぞ!」

「え…?」


鞄から顔を上げてそちらを見ると、同じクラスの男子生徒の奥に彼の姿が確認できた。

急いで立ち上がって扉へと向かい、声をかけてくれた男子生徒にお礼を言う。


「ありがとう」
「おう」


そして私の前にいる生徒会長殿…水沼君に目を向けた。


「どうしたの?水沼君がうちのクラスに来るなんて珍しいじゃない」

「ああ。今日生徒会の会議があるからそれを伝えに」

「ええっ?」


今日は友人たちと何か食べてから帰ろうと思っていたのに、まさか生徒会の会議だなんて…。

「そんなの聞いてない…」
「俺もさっき聞いたんだ」


でも私が嫌だと言ったところでやることには変わりないのだから諦めなくては…。

もとはといえば内申が上がるかも、とかいう浅はかな考えで生徒会に入った自分が悪いのだ

私はひとつため息をついたあと頷いた。

「他の連中には言ってあるから」
「分かったわ」

「宜しく頼むよ」
「ええ。じゃあまたあとで」

「ああ、また」


颯爽と自分の教室へと帰っていく生徒会長殿。水沼君は急に会議なんか入れられて不満はないのだろうか。


そんなことを考えていたら担任が来てSHRが始まった。