今日はこれから待ちに待った実習である。


実習の内容は、午前中にくのたまの先輩方とシナ先生が町の至るところに置いてきた札を持ち帰ってくるというもの。


しかもただ持ち帰るのではなく、ペアを組んだ忍たまには札のことを気付かれないようにしなくてはいけないのだ。


忍たまには今日の実習内容は伝えられていない。

ただくのたまの実習で忍たまとペアを組んで町に行き逢い引きのふりをするだけだと伝えてある。


いかに近くの人間に気づかれずに任務をこなすための実習なんだとか。



そしてそのペアとなる忍たまは自分で選んで良かったのだが…



私が選んだのは、七松小平太先輩。



入学してからずっとお慕いしていた先輩である。


ペアとなれるのは四年生以上と決められていて、それぞれ慕っている忍たまや恋仲の相手を誘っていたが、何しろ今回の実習は札のことが忍たまにはバレてはいけないので、人気のあるはずの立花先輩や久々知君も優秀な人だから今回ばかりは競争率が低かった。


そのため今回人気があったのはタカ丸さんや善法寺先輩だった。


私はというと誰ならバレにくいかなんて考えもせず、ただ七松先輩とお近づきになりたいが為にお声をかけてしまった。


と、まあ長い前降りはここまでとして。

要はそのお慕いし続けてきた七松先輩との逢い引き(実習ではあるけども)にこれから行くのだ。



いつもより小袖や簪を選ぶのにも時間がかかったし、お化粧だって厚くならないように…でも少しでも可愛いと思ってもらえるようにいつもより頑張った。



何度も何度も鏡の前で確認したあと、意を決して待ち合わせ場所へと向かった。


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待ち合わせ場所のへ行くと、そこには既に七松先輩がいらっしゃった。

初めて見る私服は若草色で、とても似合っている。


見とれそうになったが先輩を待たせてしまったことに申し訳なくて急いで近づくと先輩もこちらに気づいたようだ。


「おお、来たな!」
「お、遅くなってすみません」

「全然待ってないぞ!気にするな!」
「はっはい。」


久しぶりに近距離でお会いする七松先輩に緊張する。

近いうえにこうして二人きりで顔を合わせるのは初めてなのだ。

どこを見ればいいのか分からず、私は目が泳いでしまっていた。


「じゃあ苗字、出発するぞ!」
「はい!」





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いざ町へと繰り出した七松先輩と私。


学園を出る際に出門表に名前を書こうと門の前に行くと、同じく実習で町へと出るために出門表にサインをしているくのまたと忍たまのペアが多くいた。

そのとき何人かの友人に、本当に七松先輩と行くのね…なんて言われてしまった。

失礼しちゃうわ…七松先輩はこんなに素敵な方なのに。


ふと隣を歩く先輩を見上げると自分が見つめられていることに気づいたようで首を傾げた。


「ん?どうした?」
「い、いえっ。あ…えっと、先輩はどこか行きたいところとかございますか?」

「うーん、いや!今日は苗字の行きたいところに付き合うぞ!お前はどこか行きたいところはあるか?」
「えっと…」


そうだ、今日の実習内容を先輩は知らないんだった。

普通に町に出掛けるだけと伝えてあるのに、私ったら行きたいところとかそんなの決めてなかった…


どうしよう…


私が決めあぐねているとそれを見た先輩はニカッと笑って私の頭に手を乗せた。


「決まってないなら適当に色々と見てみるか!」

「…はい!」



そうして私たちは賑わう町へと入っていった。