真っ白と吐く息が見える今日この頃。


最近はうんと冷える。
この間は雪も降っていたし。


そんな寒い季節の夜10:30過ぎ、私は最寄り駅に着いた。


何故こんな寒い日の、しかも夜にこんなところにいるのかというと、予備校の帰りである。


大学受験を間近に控えた今、最後の追い込みなのだ。


私はどうしても行きたい大学がある。


合格ラインぎりぎりだけど、どうしてもあの大学に行くと決めたのだ。


でもその決意も受験間近にして少し薄れてしまっていた。

模試の結果はいまいちだしこのままで本当に受かるのかな、とか思ってめげてしまう。


こんなに頑張って意味なんてあるのかな…



そんな感じで落ち込みながら寒い夜道を一人歩き出す。


「寒いなあ…やっぱりマフラー買おう…。」



私はこんなに寒いのに、マフラーをしていなかった。

去年使っていたものが無くなってしまって、新しいのを買おうともしたのだが中々納得のいくものが無く、冬を迎えてしまったのだ。


でもどんなに寒くてもスカートの丈は膝上15pだ。これは女子高生のステータス。


でもやっぱり……


「……さむ。」


寒いし、勉強は嫌だし…もう最悪。


なんて思っていたら後ろから肩を叩かれた。


吃驚して後ろを向くとそこにいたのは…


「…こ、…ざっ雑渡さん…」

「やーっぱり名前ちゃんだ。」


きっちりとしたリクルートスーツとコートに身を包んだ、隣に住む幼馴染みのお兄さん……雑渡さんだった。


幼馴染みと言っても雑渡さんは私よりも5つも年上で、もう社会人なため最近は全く会っていなかった。


今はなんだか気恥ずかしくて呼べないけれど、昔は"こん兄ちゃん"なんて呼んでよく遊んでもらっていた。


寒く暗い道を、二人並んで歩く。

久しぶりに会ったもんだから気まずいと思ったけど、雑渡さんはさすが社会人といったところか、積極的に話しかけてくれた。


「夜道を一人で歩いて…危ないでしょ。こんな時間まで何してたの。」
「あ、えっと…予備校で」

「え。名前ちゃん今いくつだっけ」
「18です。」


え!もうそんなに大きくなったの、と驚く雑渡さん。


そりゃあ雑渡さんだって今や社会人だもの。私だってそんなに大きくなるわ。



「雑渡さんはお仕事の帰りですか?」
「ああ、うん。最近忙しくてね…困るよ。」


そう言って雑渡さんは寒そうに、マフラーに顔を埋めた。

そこで気づいたのか雑渡さんは私の首もとを見て信じられないといった顔をした。


「ちょっと、何で名前ちゃんマフラーしてないの。」


何て答えるか迷ったけど、ありのままのことを言うと雑渡さんは大きくため息をついた。

そして立ち止まると自分が巻いていたグレーのマフラーをほどいて、私の首に巻き付けてくれた。


「ち、ちょっと雑渡さん!」
「女の子が体冷やしちゃ駄目でしょ。足もそんなに出して…」


いや、スカートはしょうがない…と言おうとしたけど、マフラーから雑渡さんの温もりを感じてしまって、うまく言葉が出てこなかった。


「暖かい…」


私が思わずマフラーに顔を埋めると、雑渡さんは満足そうに笑ってまた歩き出した。