夜空に輝く綺麗な満月。

それを肴に一人酒を飲む男に近付く。



「健吾さん」


するとその男…長瀬健吾さんはこちらに目をやって、微笑んだ。


「名前か。」


この人は私が女中として働いているお屋敷の若様。

この時代には珍しく長身でスラッとしている。顔だって端正で、おまけに職業は巡査さんだ。

世の女性たちが放っておくわけがない。


とは言っても、健吾さんを慕っている女性はおしとやかな方が多いのか、はたまたよく健吾さんの隣を歩いている園山さんの方がやはり人気があるのか…なかなか直接声をかける人はいないようだ。

そのことに私はいつも安心している。


何故なら私が健吾さんのことを好いているからだ。


今日も本当は業務は終わっているのだけれど、健吾さんが一人月見酒をしていると聞いたものだからわざわざ残って様子を見に来たのだ。

でもそんなことはバレないように、あたかも健吾さんを気遣っているよう膝掛けを手に持って行った。



「健吾さん、夜は冷えますからこちらをお掛けください。」

「ああ、ありがとう。」

「いいえ。…それにしても…今日はお月様が一層美しいですね。」



見上げたそこには強い輝きを放つ真ん丸なお月様。


「ああ。冬の月は綺麗だ。」


寒いけどな、と言う健吾さんの笑顔は少し幼くて可愛らしい。


「名前も飲まないか?まだ結構あるんだ。」


徳利を掲げて見せられる。

私は断る理由もないし、というかむしろ嬉しく思いながら笑顔で頷き隣に腰を下ろした。


隣に座ると肩越しに健吾さんの体温がほんのり伝わってきて、どきどきしてしまう。


熱くなる頬をお酒のせいにしようとお猪口に入ったお酒をぐっと飲み込んだ。



──────────


どれだけ経っただろうか。

二人他愛のない会話をしながらお酒を楽しんだ。


もうそろそろお開きだろうといったとき、健吾さんが少し声を落として言った。

「そういえば、こうして名前と二人で酒を飲むのは初めてだな。」
「ええ。まあ立場というものもありますしね。」


「一人で飲むのもいいが、名前と飲むのも楽しいな…また頼むよ。」
「ふふ、是非ご一緒させてください。でも…旦那様たちには内緒ですよ?」


「ははっ、分かってるよ。」


二人笑い合うこの時間が好き。
かっこいいのに無邪気なこの人が、好き。


そう思っていたら、健吾さんがぐっと顔を寄せてきた。


「けっ、健吾さん…」
「名前は俺と飲むの、楽しいか?」

「へ?」
「楽しいのか…?」



健吾さん、酔ってる。
とにかくこの近距離をどうにかしないと。私の心臓がもたない。

少し距離を開けようとしたら、ぐいと腰に手を回されてもっと近付かされてしまった。



「ほら、名前答えろよ」
「〜っ!」

「名前?」



「たっ、楽しいですよ!」


私の返事を聞くと健吾さんはにやりと笑った。

これで解放される。

と思ったのに、健吾さんはぐっと私の顔を覗き込んで言った。


「どうしてだ?」

「えっ!」

「理由は?」



そんなの、言えない。
けど言わなきゃ健吾さんは解放してくれない、か…

私は覚悟を決めた。


「………だから、です」

「ん?」


「健吾さんを、好いているから、です。」


そんなこともう貴方は知っているくせに。


それなのに聞くなんて、なんて意地悪なの。



健吾さんはというとあの少年のような笑顔で嬉しそうにしていた。こんな可愛い一面を見てしまうからまた好きになってしまうのに。

やっぱり狡くて意地悪だ。


私がそんなことを考えて膨れていると、健吾さんはその大きな手を私の頭に乗せて言った。



「よくでました。」



こんな子供扱いされても喜んでしまう私は重症だろうな。



満月と酔っぱらい
(それから強引な貴方)


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一万打◎狐紅様へ
若様組長瀬さん夢

まずは大変お待たせしてしまって本当に申し訳ありませんでした!

しかも途中で長瀬さんを見失いました。

あれ、長瀬さんてこんなだっけ…もっとかっこいいはずなのに…なんて思いながら書き進めてこんな感じに。


ごめんなさい(;_q)

でも若様組のリクエストをしてくださる方がいらっしゃるだなんて思いもしなかったので本当に嬉しい限りです!

ありがとうございました!


今後もぜひ宜しくお願い致します!

日向繊