今日は聖なる夜、クリスマスイブだ。


そんな特別な日、私は今日も1日せっせと働く。仕事が終わった後に訪れる楽しみに、密かに胸を踊らせながら。


私の仕事は、ホグズミードにあるバーのウェイター。

いつもは賑わう店内も今日は多くのカップルによってどこか大人な雰囲気になる。

BGMも今日はしっとりとしたバラードだ。


カップルの邪魔にならぬようひっそりと業務をこなしていく。


時計の短針がてっぺんを越えて1時間ほど経つと徐々にお客様は減っていき、今しがた最後のお客様も寒空のもとお店を出ていった。



それから店の片付けをしていると、マスターが笑顔で話しかけてくる。


「ナマエちゃん、何だか楽しそうだねえ。」
「あら…顔に出ちゃってました…?」
「いや、なんとなくね」


柔らかく笑いながら言うマスターに少し照れながらも、私も笑顔で返す。


「久しぶりに会えるので、もうずっと楽しみにしてたんです。」
「はは、そうかい。なら私はお邪魔だろうから、上に居るよ。」

「そんな、お邪魔だなんて!」
「2人で仲良く過ごしなさい。このワインは私から2人へのプレゼントだよ。」


マスターはそう言って中々値の張るワインをカウンターに置くと、じゃあお先に、と言って店の2階へと上がって行ってしまった。

うちのお店の2階はマスターの自宅となっている。ちなみに私もここへ下宿させてもらっているのだ。


階段を上っていくマスターにお礼を言って、片付けを再開させる。


そろそろ片付けも終わるというときに、店の扉が開いた。



カランカラン…



こんな遅くに来るのはお客様じゃない。だけど私が待ちわびていた人。

ドアを振り返るとそこにはやはり予想通りの人がいた。


ドアの外の暗闇に紛れてしまうような、黒のコートを来た黒髪の彼。


「セブルスさん!」


すぐに駆け寄ると、それだけで冷たい空気が伝わってきた。


セブルスさんは今日お客様として来たわけではない。

今日はクリスマスだから会おうと、来てくれたのだ。



そう、セブルスさんと私はお付き合いをしている。



ここのバーはよくホグワーツの先生方も利用してくださっていて、最初お客様とウェイターという関係だった私たちはいつしかお互いに惹かれ合い、今の関係となっている。


会える時間は少なく限られているが、私たちは幸せ。


ホグワーツが休暇のときはこうして会いに来てくれるのだ。


「セブルスさん、こんばんは。」
「ああ…今日は随分冷えるな。」
「わっ、手冷たいですね。」


セブルスさんの冷たくなった手を引いて席へと案内する。


「ちょっと待っててくださいね。」


そう言ってとりあえず温かいスープを出した。

セブルスさんがそれを飲んでいる間に残っていた仕事を終わらせて、私もスープを持ってセブルスさんの向かいの席に腰を下ろした。


「すまないな、少し来るのが早かったか。」
「いえ、今日はお客様がゆっくりして行かれたので。それにもう終わりましたよ。」
「そうか…」



それから2人で他愛のない話をして過ごす。そこでふと、さっきマスターから頂いたワインを思い出した。


「セブルスさん、美味しそうなワインを頂いたんです。乾杯しませんか?」
「ああ、そうだな。頂くとしよう。」
「はい。今持ってきますね!」


そう言って一度席を離れ、ワインとおつまみを準備して席へと戻る。


ワインとおつまみを準備している間に、カウンターの下に隠しておいたプレゼントを懐へと忍ばせる。


「お待たせしました。」
「ああ、ありがとう。」


お互いのグラスにワインを注ぐ。


「それじゃあ、セブルスさん。」

「…メリークリスマス。」
「メリークリスマス。」



チン―…