と、七松先輩への想いを再確認したのはいいが、それよりも今私は右手に意識がいってしまっていた。


先程引っ張られてからずっと繋がれている右手。

嬉しいけど…でもっ


「あの!先輩!」
「どうした?」

「あ、そのっ…手が」
「ああ。混んでるからな!はぐれちゃダメだぞ!」


そう笑顔で言ってのける先輩に、私は抵抗できるわけがなかった。

右手から伝わる先輩の温もりに、どうにかなってしまいそう…。



火照る頬を抑えながら二人並んで芸者さんをしばらく見て、私たちはまた外へ出た。



「さて、もう日が傾き始めたし…そろそろ帰るか!」
「はい、そうですね」



そうして二人は学園へと歩き出す。


人混みを抜けると、いつの間にか繋がれた右手はほどかれていた。


学園に着いたら、また元のようにお話しをする機会もなくなってしまうのだろうな…。


結局、先輩との距離は縮められなかったのかな。


そんなことを思っていたら、隣を歩いていた先輩がふと立ち止まった。


「七松先輩?」
「これ、忘れてた!」


そう言って先輩が取り出したのは白と桃色で編まれた髪紐だった。


「仙蔵がな、せっかく苗字と町へ行くのなら贈り物でもしてやれと言ってて。さっき小間物屋に寄ったとき買ったんだ!この色、絶対お前に似合うぞ!」


はい!と渡される。
立花先輩に言われたからといって、先輩が私に買ってくれただなんて…

小間物屋に寄ったとき私は札に夢中だったから、先輩が髪紐を見ていたことなんて知らなかった。

しかも、私の好きな白と桃色。


私は嬉しすぎて、髪紐をきゅっと握りしめて胸に当てた。



しかし髪紐を両手で握りしめて何も言わない私を不思議に思ったのか七松先輩は焦ったように問いかけてきた。


「あれ?…ご、ごめん!もしかして気に入らなかったか!?長次に苗字の好きな色は白と桃色だって聞いたんだけど」
「えっ、あ!ち、違います!嬉しくて!」

「本当に?」
「はい!私、白と桃色好きです。この髪紐とても素敵だから嬉しくて…」

「…そうか!よかった!」
「これ、明日から毎日着けますね。」



もうこれは肌身離さず持っていよう。そう心に決めたのだった。

すると七松先輩はニカッと笑って言った。


「じゃあ着けたら私のところにも見せに来てくれよ!」


これは、また会いに行ってもいいということだろうか。

先輩からしたらただ自分が贈った髪紐を着けたところを見てみたいというだけだろうけど、この言葉が私は凄く嬉しかった。


「はいっ!一番に、見せにいきます!」
「おお!待ってるぞ!」


そう言って、二人で笑いながらまた学園に向かい歩き出した。


学園に帰っても会う約束が出来た私の足取りは、とても軽いものだった。


「なあ苗字!」
「なんですか?」

「仲良くなった印に、名前と呼んでもいいか?」



突然先輩の口から出た私の名前。

思わず足が止まってしまった。



「駄目か?」
「ぜ、全然駄目じゃないです!」

「そうか!じゃあ今から私は名前と呼ぶぞ!」
「は、はい…」


この火照る頬を抑える術はあるのだろうか。

数歩前でこちらを振り向く先輩が、楽しそうに笑って続けた。


「名前も私のことは下の名前で呼んでくれ!」
「えっ、あ…」

「ほら!」


いつか呼べたらいいと思っていた先輩の御名前。

心のなかでは何度も呼んでいたはずなのに、いざ本人を前にするとこんなにも緊張するんだ。


でも、せっかくの機会を逃すわけにはいかない。



「こ…小平太、先輩」



私の小さな声を、先輩はしっかりと拾ってくださったようだ。

あの太陽の笑みで、よし!と言った。


「帰ろう、名前!」
「はい、小平太先輩」




手は繋いでいないのに、何故か繋いでいたときよりも先輩を近くに感じた。


今日の実習はきっと点数もいいだろう。


こんなに素敵な一日になったのは、隣を歩くお天道様のおかげ。




太陽に焦がされて
(私はもう、敵わない)


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一万打企画◎七日様へ
小平太夢

短編 太陽に焦がれて
の続編でした!


七日様、大変長らくお待たせして本当に申し訳ありませんでした!!


しかも3日くらいに分けて書いてたものですから私も途中でワケわからなくなってきてしまって…本当に申し訳ないです。

それにいろんなものを詰め込みすぎて長くなってしまいました(>_<)


短編が苦手だということをつくづく思い知りました(´・ω・`)

七日様、せっかくリクエストしていただいたのにこんな出来で申し訳ありません!


精進致します。



今回は一万打企画に参加していただき本当にありがとうございました!!


日向繊