色々なお店を見て回るというのは、札を探している私にとってはとても好都合だった。


甘味処や小間物屋など至るところに札はあった。


もう既に先輩にばれぬうちにいくつかの札を回収できたので、これだけあればある程度の成績はもらえるはず。


あとはゆっくり先輩とのお出掛けを楽しもうじゃないか。



それにしても学園を出てから大分時間は経ったというのに、私は未だ緊張していた。

さすがに出発したての頃よりは幾分か良くなっているとは思うが、隣を歩くのはずっとお慕いしている先輩だ。緊張がとけるはずがなかった。


実習とはいえせっかく町に来ているのに、こんな奴が相手じゃ先輩はきっと楽しくないだろうな…

なんて少し落ち込んでいたら突然先輩が声を上げた。


「あ!ほら苗字見てみろ!」
「え?」


先輩の指差す方を見ると、何やら芸者さんたちが芸をしているらしい囲いがあった。


「見ていこうか!」
「はい!」


先輩の後に続いて歩いていくと、囲いの入り口で呼び込みをしている人に目がいった。


「(!…あの人の腰ひものところに札がある…)」



人に仕掛けられている札を持ち帰るのは点数も高いはずだ。


よし、取るぞ。


先輩を見上げてみても呼び込みの人には目を向けていない。

すれ違うときが勝負だな。


先輩が入り口から入ろうと簾を持ち上げたとき、私と呼び込みの人はすれ違った。



ドンッ


「きゃっ!す、すみません…」
「ああ、いえ」


わざとぶつかり、離れるときに札も同時に抜き取った。

よし、成功だ。


良かった、と思った矢先。

中に入ろうとしていた七松先輩が眉間に皺を寄せてこちらに近寄ってきた。

いけない!ばれただろうか。


「おい、」

「は、はいっ…」


きゅ、と目をつむる。
ああ…実習も失敗だし七松先輩を怒らせちゃうし最悪だ。

すみません、と謝ろうと顔を上げると、そこに七松先輩はいらっしゃらなかった。


「え?…あれ?」


キョロキョロと探すと先輩は私のすぐ後ろで、さっきの呼び込みの人の腕を掴んでいた。


「七松先ぱ
「ちょっとあんた、」
「はい?」

「さっきこの子にぶつかっただろう、謝れ。女の子だぞ。」
「えっ、あ、すみません!」


呼び込みの人は七松先輩の剣幕に怯えたように直ぐに私に謝ってきた。


「すみません、お嬢さん!お怪我は?」
「あっ全然大丈夫です!こちらこそ、すみません…」



私がわざとぶつかったのに…呼び込みの人には悪いことをしてしまった。

呼び込みの人が謝ったことに納得がいったのか七松先輩は笑った。



「よし!なあおじさん、ここは無料で見ていっていいのか?」

「あ、はい…」

「そうか!ありがとう!じゃあ行こう苗字」

「ちょっ七松先輩!」



先程までの怒っていた先輩はどこへやら、笑顔で私の右手を掴ん囲いの中へと入っていく。

囲いの外にはぽかんとした呼び込みの人が残された。



───────────



私の右手を掴んで、芸者さんが見えやすい位置へと進んでいく七松先輩。


「あ、あのっ七松先輩!」
「ん?なんだ?」

「さっきは…」



私のために、怒ってくださったのですか?



なんて、そんな自意識過剰なことを聞ける勇気はない。



「さっきは、ありがとうございました。」
「おう!気にするな!」



笑顔で答えてくれる七松先輩はやっぱり素敵。

立花先輩のように綺麗な髪の毛ではないし、久々知君のように睫毛の長い大きな目をしているわけでもない。それにタカ丸さんような繊細さもないけれど…


この男前でいけどんな、太陽のようなこの人のことが、私は好きなのだ。