私の想い人…それは六年生の七松小平太先輩。


私よりひとつ年上の彼は体育委員会で委員長を務め、また有り余る体力で行われた数々のいけどんな所業によって"暴君"などという呼び名がついている。


そんな彼のことを知らない者は忍たまだけでなく、我々くのたまでもいない。


誰もが知ってる七松先輩。


暴君の七松先輩。


私は少しでも先輩に近づきたくて、先輩に私の存在を知ってほしくてたくさん努力した。

くのたまで一番になって有名になろうと鍛練と勉学を今まで以上に頑張った。

夜だって自主練は欠かさないし、図書室でたくさんの本を借りて読み、勉強した。


見た目にも気を使って、少しでも綺麗でいようと努力した。


しかしどうだ。

それらを早二年も続けたが、その結果お近づきになれたのは鍛練仲間になってしまった潮江先輩と図書委員の中在家先輩だ。

確かにいい先輩。
いい先輩なのだけれど、私が求めているのは七松先輩なのに!





「はあ…。」


「何よ名前、ため息なんかついて。」


不思議そうに私を覗きこむ友人に目線をやりつつ、もうひとつため息をつく。

そしていつもの台詞を言うのだ。


「どうしたら七松先輩とお近づきになれるかしら…。」


すると友人は嫌そうな顔をする。
本当に失礼だわ。

「あんたまた七松先輩?」

「…だって素敵なんだもの。」


この友人…いや、くの一教室の皆は七松先輩の良さを全くわかっていないと思う。

私が七松先輩にお熱なのは今やくの一教室では誰もが知っている。

しかし誰も賛同してくる者はいない。

皆七松先輩よりも立花先輩や食満先輩、あとは五年の久々知君や四年のタカ丸さんがいいのだとか。

確かにあの人たちも素敵だけれど、七松先輩には敵わないと思う。

七松先輩…あの人は太陽だ。
元気で暖かい。
笑顔も輝いている。

多少いけどんなところもあるけれど、そこも素敵だ。


そう語る私を友人は冷たい目で見詰めてくる。


「そんな目で見ないで。」
「だって理解できないんだもの。」

「もう理解してくれなくてもいいわよ…。むしろ理解されちゃったら恋敵が増えてしまうもの。」
「はいはい。…あ!」


いつものように流されるかと思いきや声を上げた友人を見るとそこには笑顔が広がっていた。

「どうしたの?」

「名前、もしかしたらお近づきになれるかもしれないわよ!」

「本当に!」


友人の話によると、再来週末に色の実習で町に行くらしい。その相手は忍たまから自由に選べるそうだ。

なんて素晴らしい実習なのだ。


「わ、私七松先輩と行きたい…!」

「だから自分で誘うのよ…。七松先輩は競争率そんなに高くはないと思うけど、早めに誘っときなさいよ。」

「が、頑張る!」



七松先輩と、逢い引き…いや実習だけど。でも先輩と二人で町中を歩けるだなんて夢みたいだわ!

そうと決まれば早く誘わないと。









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