それからしばらくお茶会を楽しんだ。

私としては密かにお慕いしている方と同じ時間を過ごせてドキドキしているが、組頭からしたらただの部下とお茶をしているだけなんだよな。

そんなことを考えていたら組頭がふと私の名を呼んだ。



「ねえ名前ちゃん」

「はい」


私が顔を上げた先には私の大好きな組頭。少し照れてしまって視線をずらすと組頭はゆっくりと言った。



「私の包帯なんだけど、もうやらなくていいよ。」



「え……?」



思わず組頭の包帯で覆われていない右目を見つめる。

私、何か気に障ることでもしてしまったのだろうか。


「毎日大変だろうしね、他の女中の人に頼んでもいいし。」

「………」

「あれだったら尊奈門に頼んでもいいしさ。」


嫌だ、組頭の包帯は唯一私と彼を結ぶものだったのに。

気付けば私は立ち上がっていた。


「…名前ちゃん?」

「…い、嫌です。」
「え…?」

「私、もっと綺麗に洗います。もっと綺麗に巻きます。ですからっ…」

「ち、ちょっと名前ちゃん?」


「私に、やらせてください。」


深く頭を下げる。


何がいけなかったの。
今からでも全て洗い直しますから。

私にやらせてください。


この仕事がなくなってしまっては、私が組頭とお会いできる時間はうんと減ってしまう。

嫌だ。こんな不純な思いで仕事をしているだなんて組頭に知られてしまったら、それこそ辞めろと言われてしまうかも知れないけれど。

でも、それでも嫌だ。



そんな思いで下げていた頭に

ぽん。
と、暖かいものが乗った。


組頭の手だ。


「うーん。…どうして私の包帯なんかをやりたがるのかは分からないけど…そういうなら名前ちゃんにお願いしようかなあ。」


そっと見上げると、組頭は右目を優しく細めてくださっていた。


「あ、ありがとうございます!」

良かった…

ほ、と肩を撫で下ろす。

そんな私に組頭は不思議そうに聞いてきた。

「どうして包帯なんかをやりたがってくれるんだい?面倒でしょうよ。」


そんな理由なんて、決まってるじゃないですか。


「私がやりたいからです。」

「え…?」


「組頭の包帯は、他の誰かにやらせてほしくありません。…私が、やりたいんです。…それに」

私が言葉に詰まると、組頭がこちらを見詰めてくる。

いけない、顔が熱くなってきた。
でもここで言うしかないだろう。

しっかり言うんだ、私。


「それにっ…組頭のお役に、立ちたいんです。たとえ包帯の洗濯であっても組頭のお役に立てて、組頭と関われるのであればやりたいんです。…あなたに、私を認識していて頂きたいんです。」



"組頭とお会いできる、いい口実にもなってるんです。"



そう続けた私に組頭は少なからず驚いたようだ。包帯の隙間から見える右目が、いつもより大きく開いている。


「え…と、名前ちゃん?」


そう小さく呟かれた組頭の声で私は我に返り急に恥ずかしくなってきた。


「あ、えっと!…し、失礼します!」


深く一礼をして組頭の部屋を後にした。もちろん急ぎ足である。


変なやつだと思われただろうなあ。




********


「あれ、組頭どうしたんですか?楽しそうですね。」

「ああ尊奈門か。…まあね、可愛い子がいたもんだから。」

「?…そうですか。」



次に会ったときは
(いじめてみようかな。)









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