夕食の片付けが終わり、後は明日の朝に炊くお米を洗うだけになりました。 「あとは私がやっておきますので、先輩方はお休みください。」 「ありがとう、名前。お疲れ様。」 「名前、お先にねー。」 「お疲れ様でした。」 御勝手を後にする先輩方を見送って、お米を洗う。これは殿や事務の方はもちろん、忍軍や鉄砲隊の方の分も全て洗うので一度では終わらないうえにかなりの重労働です。 朝やるとなると早起きしなくてはいけないし、お米を水に浸す時間が取れないので前の晩にやることになっています。 ちなみにこれも新人の仕事なのです。 「ふう…終わり、と」 もうすぐこちらに勤めて1年になりますが、この大量のお米洗いは未だに慣れずに、疲れてしまいます。 いつもならこれで私の仕事は終わりなのですが、今日は鉄砲隊の方に解れた袴の修繕を頼まれているのです。 裁縫道具を取りだし御勝手の大きな机で袴を縫おうと机に向かったとき、 「苗字さん?」 「きゃあああっ!」 後ろから誰かに声をかけられ、あまりの驚きに腰を抜かしてしまいました。 「え、あ、すみません!」 謝る声に振り向くと、そこにいたのは 「…も、諸泉さま…」 あのお優しい忍者さんでした。 「急に声かけてすみません…。大丈夫ですか?」 「は、はいっ。私の方こそ失礼致しました…」 急いで立ち頭を下げる。 すると諸泉さまはにこりと笑ってくださった。そして何か白いものを差し出した。 「……?」 「手拭い、ありがとうございました。」 「あっ、わざわざすみません!洗濯物の籠に入れてくださって良ろしかったんですよ…」 「いや、さすがにお借りしたものだったので。それに…」 「?」 「夕飯を持ってきてくれた女中さんが、是非直接返しに行ってあげてくれと。」「…な!」 先輩方ったら…! お会いできたことはとても嬉しいですが、そんなふうに言ってはまるで私が諸泉さまのことをお慕いしているようではないですか。 「す、すみません…わざわざ諸泉様のお手を煩わせるようなことを…」 「いえ、全然!…それより、私の名前知っててくれたんですね。」 「え、あ!女中の先輩方が教えてくださって…」 「あ、なるほど。」 あの女中さんたちは勢いありますよね、と笑った諸泉さまはとても素敵だった。 「も、諸泉様は何故私の名前を…?」 私がそう聞くと、諸泉様は何故か頬を赤らめて目線をずらしてしまいました。 「…あー…、女中さんたちが。」 「そうですか…。」 「あ、あの…"様"って、やめません?」 「え?」 「なんだかくすぐったくて。」 忍軍の方でしかも年上なのだから当たり前のように付けてしまっていましたが嫌だったのなら変えなくては。 「でしたら…諸泉さんで、宜しいですか?」 「はい!」 そう返事をしてくださった諸泉さんの笑顔は、今まで見た中でも一番に輝いていて。 私の心は射ぬかれてしまいました。 もしかしてこれは (恋の始まりでしょうか) ← |