あの出来事から、一週間が経ちました。

私あの後もいろいろと仕事重なり、あの忍者さんに直接手拭いを返す機会がありませんでした。

とりあえず持ち歩いてはいますが、お会いすることもないのです。

もうそろそろ返さなくてはご迷惑になるでしょう…しかし私は彼の名前すら存じません。

どうしましょう…

「名前、どうしたの?」
「…あ、先輩っ、お疲れ様です」
「お疲れ様ー、どうしたのよ。唸っちゃって。」


休憩時間、私が考え込んでいると女中の先輩方が心配して声をかけてくださりました。

「忍軍の方から手拭いをお預かりしたのですが…返すにもお名前がわからなくて。」

「あら、忍軍なら私今お食事担当してるわよ。」
「え!本当ですか!」

多くの先輩方の何人かが忍軍の食事担当をしているとかで、この間の忍者さんの特徴を述べると先輩方はすぐに思い付いたように1人の名前を仰られました。

「それきっと諸泉くんよ。」
「そうね。あの子若いし、可愛いわよね。」

「諸泉様、ですか…?」

私が聞くと先輩方はにこにこして教えてくれました。

「そうよ。諸泉尊奈門君。」
「確か19だから…名前より2つ年上ね。」
「2、3年前に来たのよね。」
「そうそう。まだ新人よ。」

「へえ……」


諸泉、尊奈門様……
なんだか珍しいお名前。

「で!名前は諸泉君にお熱なのかしら?」

「…え?」

「だって探してるんでしょう?」
「ただ返すだけならいつもの籠に入れとけばいいじゃない。」

いつもの籠とは、綺麗になった洗濯物を畳んだ後、忍軍のものは誰のものでも構わずに一つの籠に入れ返却するようになっているのです。

確かにそこに入れておけば気づいてもらえるのでしょう。


「手拭いを口実に、また会いたいとか?」
「やだ名前、可愛い!」

口々に言う先輩方に思わず焦ってしまう。私は慌てて否定しました。

「ち、違いますよ!そんなんじゃ、ありませんっ」
「誤魔化さなくていいわよー」
「そうそう、素直になっちゃいなさい。」
「本当に違います…!」



問い詰めてくる先輩方から何とか逃げてきて、私が足を運んだのは洗い終わった忍軍の方の洗濯物が入った籠の前。

「はあ…」

先程先輩方には違うと言ってしまいましたが、またお会いしたいという気持ちが少なからずはありました。

しかしもう諦めましょう。
お名前を知ることが出来たのですから、それで満足しなくては。


私はそっと籠の中に彼の手拭いを入れ、自分の仕事に戻りました。









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